18:15 〜 19:30
[AHW27-P01] チュニジア北東沿岸部の貯水ダム下流域における浅層地下水の水質形成特性
キーワード:塩水浸入, ダム水の涵養効果, 無機溶存イオン濃度, 酸素・水素安定同位体比, 物質収支式, 多変量解析
主に乾燥・半乾燥地域の沿岸域で生じている地下水位低下に伴う浅層地下水の塩水化に対して,ダム貯水池が周辺地域の地下水環境に与える影響を空間的に把握することを目的として,現地調査と水質分析結果を基に対象地域の水質形成プロセスを検討し,その形成特性を地域別に記述することを試みた.対象地域は,北アフリカのチュニジア北東部Korba帯水層上に位置し,ダム貯水池(Lebnaダム)が存在するLebna下流域とそれに隣接するChiba下流域からなる地域で,2013年6月に計72地点で調査し,66地点で水試料を得た.
まず,各調査地点で計測した地下水位データを基に対象地域の地下面図を作成し,地下水流動方向を調べた.次に,無機溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を分析し,水質組成の空間分布を明示するとともに,Cl-を海水起源と仮定して物質収支式より求めた各地点の海水の混合割合を基に,上流端地下水と海水が単純混合したと仮定した場合の地下水の溶存イオン濃度と酸素安定同位体比を推定し,それと分析値の偏差を求め,その空間特性を調べた.加えて,地下水と鉱物間の溶存イオンの化学平衡理論を基に飽和指数を求め,考えられる水質形成過程を抽出した.さらに,溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を用いてクラスター分析と主成分分析を行い,地下水質組成の空間特性とそれを決める水質パラメータを調べた.
その結果,現地調査よりLebnaダム下流域の地下水位は海水面よりも高く,Chiba流域の地下水位は海水面よりも最大10 mも低いことが分かった.物質収支式によって求めた海水割合,及び酸素・水素安定同位体比結果より,各調査地点は(i)海水割合の高い地点,(ii)海水割合と同位体比が低い地点,(iii)海水割合は低いが同位体比が高い地点の3グループに分類できた.一方,クラスター分析より各調査地点を5つのクラスターに大別することができ,その要因として主成分分析より,(a)海水の混合率,(b)海水と粘土鉱物の接触による逆イオン交換反応の有無,(c)Lebnaダム貯水池からの涵養の有無の3つの事象が関与しているものと考えられた.また,その3つの事象a,b,cと,上述の海水割合と酸素・水素安定同位体比から分類された3グループi,ii,iii,及び地下水位から,対象地域を水質形成特性の異なる3つの地域A,B,Cに分類することができた.
地下水位が海水面よりも高いLebnaダム下流域の酸素・水素安定同位体比が高く,海水割合の低い地域Aでは,Lebnaダム水の直接浸透,もしくはダム水を用いた地表水灌漑農業による地表水浸透によって,地下水位が高く維持され,地下水の塩水化が抑制されていると考えられた.また,地下水位が0 m~-4 m程度で海水割合が高く,各溶存イオン濃度の高い海岸近くの地域Bでは,塩水浸入の影響でNa+,Cl-濃度が高いことに加えて,粘土鉱物との逆イオン交換反応によって生じる高いCa2+濃度によってその地下水が特徴づけられている可能性が示唆された.最後に,地下水位が-4 m以下でChiba流域の内陸側に位置する地域Cでは,地域Aからの地下水と,Chiba流域のさらに上流側からの降水起源の地下水,及びCa2+濃度の高い地域Bの地下水が流入していると考えられ,それらが混合してその地下水質を形成しているものと考えられた.
まず,各調査地点で計測した地下水位データを基に対象地域の地下面図を作成し,地下水流動方向を調べた.次に,無機溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を分析し,水質組成の空間分布を明示するとともに,Cl-を海水起源と仮定して物質収支式より求めた各地点の海水の混合割合を基に,上流端地下水と海水が単純混合したと仮定した場合の地下水の溶存イオン濃度と酸素安定同位体比を推定し,それと分析値の偏差を求め,その空間特性を調べた.加えて,地下水と鉱物間の溶存イオンの化学平衡理論を基に飽和指数を求め,考えられる水質形成過程を抽出した.さらに,溶存イオン濃度と酸素・水素安定同位体比を用いてクラスター分析と主成分分析を行い,地下水質組成の空間特性とそれを決める水質パラメータを調べた.
その結果,現地調査よりLebnaダム下流域の地下水位は海水面よりも高く,Chiba流域の地下水位は海水面よりも最大10 mも低いことが分かった.物質収支式によって求めた海水割合,及び酸素・水素安定同位体比結果より,各調査地点は(i)海水割合の高い地点,(ii)海水割合と同位体比が低い地点,(iii)海水割合は低いが同位体比が高い地点の3グループに分類できた.一方,クラスター分析より各調査地点を5つのクラスターに大別することができ,その要因として主成分分析より,(a)海水の混合率,(b)海水と粘土鉱物の接触による逆イオン交換反応の有無,(c)Lebnaダム貯水池からの涵養の有無の3つの事象が関与しているものと考えられた.また,その3つの事象a,b,cと,上述の海水割合と酸素・水素安定同位体比から分類された3グループi,ii,iii,及び地下水位から,対象地域を水質形成特性の異なる3つの地域A,B,Cに分類することができた.
地下水位が海水面よりも高いLebnaダム下流域の酸素・水素安定同位体比が高く,海水割合の低い地域Aでは,Lebnaダム水の直接浸透,もしくはダム水を用いた地表水灌漑農業による地表水浸透によって,地下水位が高く維持され,地下水の塩水化が抑制されていると考えられた.また,地下水位が0 m~-4 m程度で海水割合が高く,各溶存イオン濃度の高い海岸近くの地域Bでは,塩水浸入の影響でNa+,Cl-濃度が高いことに加えて,粘土鉱物との逆イオン交換反応によって生じる高いCa2+濃度によってその地下水が特徴づけられている可能性が示唆された.最後に,地下水位が-4 m以下でChiba流域の内陸側に位置する地域Cでは,地域Aからの地下水と,Chiba流域のさらに上流側からの降水起源の地下水,及びCa2+濃度の高い地域Bの地下水が流入していると考えられ,それらが混合してその地下水質を形成しているものと考えられた.