日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27_1PO1] 水循環・水環境

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*林 武司(秋田大学教育文化学部)、内田 洋平((独)産業技術総合研究所地質調査総合センター)、樋口 篤志(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)

18:15 〜 19:30

[AHW27-P02] 甲府盆地西方の糸魚川-静岡構造線周辺に賦存する地下水の地球化学的特徴

*谷口 無我1村松 容一2千葉 仁3奥村 文章4山室 真澄1 (1.東大新領域、2.東理大理工、3.岡山大理、4.石油資源開発(株)技術研究所)

キーワード:糸魚川-静岡構造線, 深部流体, 水質, 成因

1.目的
日本列島の非火山地域では掘削による温泉開発が盛んに行われているが、これらの非火山性の温泉水は成因が不明のものが多い。太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界付近に位置する甲府盆地周辺には、深度1000mを超えるような深部掘削による温泉井が多数存在する。これらの中には海水と同程度かそれ以上の塩分を持つ流体が存在するが、その水や溶存成分の起源は明らかにされていない。本研究は、甲府盆地西方の糸魚川-静岡構造線および中央構造線周辺に賦存する高塩分流体の水質および安定同位体の特徴に基づき、地質鉱物学的視点に立って、当該流体の起源および水質形成メカニズムを考察することを目的とした。

2.方法
温泉水(掘削深度0~1500m)を中心に、地下水を全25か所から採水した。採水現場ではカスタニーACT pHメータ(HORIBA D-24)を使用して水温、電気伝導度、pH を測定するとともに聞き取り調査を実施し、掘削井戸構造図などのデータを得た。主要陽陰イオンの分析にはイオンクロマトグラフ法(SHIMADZU LC-VP)、SiO2はモリブデン黄法(SHIMADZU UV-1650PC)、Fe は原子吸光法(SHIMADZU AA-6200)、HCO3- 濃度は容量法によるpH4.8 アルカリ度から算出した(HACH AL-DT)。水素、酸素、硫黄の安定同位体比(δD, δ18O, δ34S) 分析には、安定同位体比質量分析計(GV Instruments Isoprime-EA)を使用した。

3.結果と考察
試料水の温度は最大48.8℃、pHは6.4~9.7の範囲であり、泉質はCa-HCO3型、CaMg-HCO3型、NaCa-HCO3型、Na-HCO3型、Ca-SO4型、Na-ClHCO3型、Na-Cl型と多様な水質を示した。これらの中で最も支配的な水質はNa-Cl型であり、Cl濃度は最大約23000 mg/Lだった。
試料水のNaとCl 濃度の関係は降水-海水混合線に沿って分布したことから、当該地域の地下水は大局的に降水端成分および海水端成分との混合よって形成されたと考えられる。低塩分の試料水のδDとδ18Oの関係は天水線に沿って分布しており降水起源が支持される一方、海水と同程度あるいはそれ以上の塩分濃度の試料水のδDとδ18Oはいずれも現海水に比較して低い。このような高塩分の試料水は、Mg/Cl および SO4/Cl 当量比が現海水の当量比に比べて著しく小さく、一方でCa/Cl 等量比は現海水の当量比よりも高いことから、当該海水端成分は海底玄武岩の変質および海底堆積物中の火山性物質のMg-スメクタイト化の影響を受けて変質した海水であると推察される。当該地域に卓越するNa-Cl型の地下水は、このような高塩分の流体が糸魚川-静岡構造線などの深部に達する断層に沿って流動する過程で、降水起源の低塩分の地下水と混合して形成されたと推定される。