日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW28_30AM2] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 314 (3F)

コンビーナ:*知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(京都大学生態学研究センター)、座長:中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)

12:15 〜 12:30

[AHW28-13] 水源林における分布型USLEモデル及びLQ式を用いた森林の土砂流出量の推計と検証

*中島 綾一朗1丹治 三則1岡村 雅人2 (1.慶應義塾大学環境情報学部、2.慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)

キーワード:水源涵養林, 土砂流出量, USLE, LQ式

本研究では、水源林からの土砂流出抑制を目的として、流出土砂量の推計と推計結果の検証を行った上で土砂流出抑制策を検討した。対象地域は神奈川県横浜市の水源である山梨県南都留郡道志村の私有民有林(4,594ha)および横浜市所有の水源涵養林(2,823ha)である。水源涵養林は横浜市水道局の管理の下適切な森林管理が行われているが、私有民有林については林業が衰退し現在では間伐はほとんど行われていない。そのため、水源涵養機能・土砂流出防止機能・水質浄化機能の低下が懸念されている。流出土砂量の推計にはUSLE(Universal Soil Loss Equation)を用い、R(降雨係数)、K(土壌係数)、LS(地形係数)、C(植被係数)、P(保全係数)から求めた。各入力データは、RおよびLSは国土交通省の国土数値情報、Kは横浜市水道局提供の土壌図、Cは北原(2002)、Pは山瀬他(2010)から作成した。また土地利用/土地被覆は自然環境GISおよび横浜市水道局提供の小林班図、森林管理方法は道志村森林整備計画(2010)および道志水源林第10期管理計画書を用いてGISで変換結合し、活用した。次に推計結果を検証するために、下流の両国橋付近で実測された1955年~2012年までの河川流量と浮遊物質(SS)データを用いて、L-Q式を作成し年間のSSフラックスを求め、これに道志川流域のさらに下流にある道志ダムで観測された毎年の堆積土砂量を加えて年間の流出土砂量を推計した。その結果、USLEで推計された年間の流出土砂量は97,820t/yrであり、これに対してL-Q式で算出されたSSフラックスは400t/yr(SS=aQb(R2=0.3223))、ダムでの年間の堆積土砂量は62,500t/yrであることが明らかにされた。なお、道志村の人為的なSS負荷量は年間1.8t/yr程度であることがわかっており、人為的な影響は軽微であると考えられる。USLEは各グリッドから隣接グリッドへの土砂流出を意味するため観測ポイントまでの流達量を考慮してはいない。よって97,820(t/yr)の土砂が流出し、その後に流下する過程で土砂が保持され、道志ダムの流達地点では62,500(t/yr)程度の土砂量に減衰したと考えられる。USLEの結果をグリッド別にみると、2つの傾向に大別されることがわかった。第1に、広葉樹林が多く分布する小流域では流出土砂量は大きくなる傾向があると明らかにされた。第2に、人工林であるが間伐されず放置された私有民有林の針葉樹林においては流出土砂量が大きくなることが明らかにされた。第3に、いずれの流域においても傾斜が急な尾根部で流出土砂量が大きくなることが明らかにされた。結論として、USLEと実際の堆積土砂量及び土砂フラックスを比較した結果、土砂流出が多いグリッドから流出した土砂は、流下過程において各グリッドで徐々に保持され、道志川流域の末端までに27%程度減衰することが明らかにされた。主な土砂供給源は、傾斜地の放棄された人工林と天然林であり、流出土砂量を抑制するためには人工林では急傾斜地帯の間伐、天然林では谷沿いの重点的な砂防事業の実施が求められる。