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[AHW28-23] 倍速IRMS法による硝酸イオンのδ15Nおよびδ18O同時分析技術の開発と流域研究への適用
キーワード:水田集水域, 灌漑, 同位体質量分析, 硝酸, 安定同位体, 流域
硝酸イオンの窒素 (δ15N) および酸素 (δ18O) 安定同位体比は、その起源により固有の値を有し、汚染源の特定や環境中の物理的・生化学的変化プロセスを解明できるトレーサーである。脱窒菌法 (Casciotti et al., 2002) の開発によって、δ15Nとδ18Oの低濃度および多数試料の迅速測定が可能となった。中島ら (2008) はこの手法を用いてIRMSによりδ15Nおよびδ18Oを測定し、農地集水域における硝酸態窒素の負荷源の解析や脱窒の寄与率を推定した。さらに最近、オートサンプラー (Matthew et al., 2011) の開発によって自動分析が可能となった。本研究は、サンプル導入系におけるトラップと6方バルブの制御を改良し、硝酸イオンのδ15Nおよびδ18Oの同時自動分析をさらに迅速化することを目的とした。 本研究の結果、現サンプルをIRMS分析しながら次サンプルを導入し、従来と同じ測定精度を保ちつつサンプルスループットを約2倍に改善した。また、キャリアガスのヘリウムならびに液体窒素の使用量を半減し、分析コストの削減に成功した。本手法は、周辺装置の諸設定は従来法を維持し、タイムイベントのみ高効率化するため、IRMSの汎用性が担保される点で独自性が高い。さらに二酸化炭素等、濃縮を要するガスの分析にも適用でき、温室効果ガスの発生源や生成・消滅過程の研究にも貢献できる。 本研究で開発した技術を用いて、渓流水、霞ヶ浦用水を灌漑水源とする茨城県筑波山麓の水田集水域において硝酸イオンのδ15Nとδ18Oを評価した。灌漑期のδ15N-δ18Oプロットから、河川水中の硝酸イオンは主に渓流水と用水に由来し、灌漑による混合・希釈効果に比べると脱窒の影響は相対的に小さいことを明らかにした (図1)。(引用文献)Casciotti K. L., Sigman D. M., Galanter Hastings M. Bohlke J. K. and Hilkert A., Analytical Chemistry, 74, 4905-4912, 2002Matthew R. M. and Casciotti K. L., Analytical Chemistry, 83, 1850-1856, 2011中島泰弘, 尾坂兼一, 松森堅治, 藤原英司, 加藤英孝, 日本土壌肥料学会講演要旨集, 54, 17-17, 2008