日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW28_30PM2] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2014年4月30日(水) 16:15 〜 17:45 314 (3F)

コンビーナ:*知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(京都大学生態学研究センター)、座長:小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)

17:15 〜 17:30

[AHW28-P05_PG] ベトナム北部を流れる紅河における水質汚濁とヒ素の挙動について

ポスター講演3分口頭発表枠

*井上 凌1 (1.大阪市立大学大学院理学研究科)

キーワード:ヒ素, 紅河, ベトナム, 同位体

ベトナム北部を流れる紅河は中国の雲南省に源流をもち、ベトナム領内では3000m級の山々からなるホアンリエン山脈に沿ってほぼ平行に流れている。その下流域には紅河デルタが広がっているが、そのデルタの直上に位置する農村地帯では地下水のヒ素汚染が深刻な問題となっている。ヒ素の原因物質は河川を通じて帯水層に運搬されると考えられているが、その運搬過程はわかっていない。本研究ではベトナム領内において採集した紅河の河川水・懸濁物・堆積物の分析を行うことにより、紅河を通じたヒ素の運搬過程を考察した。また、主成分の分析結果から浮かび上がったベトナム領内における水質汚濁の状況と原因に関しても述べる。
河川水の主化学成分濃度はベトナム領内で最上流部に位置するラオカイ周辺で5.0(meq/L)、中流のバオハでは2.4(meq/L),イェンバイで2.1(meq/L)、下流のハノイで3.4(meq/L)であった。ラオカイとハノイの間で濃度が低下しているが、この原因はホアンリエン山脈を涵養域とする支流から周辺よりも低濃度の水の流入があるからである。本流への支流の寄与は水の酸素・水素同位体比の変化からも明らかである。ラオカイ周辺では水のδ18Oが-9.9~-10.0‰、δ2Hが-69‰程度である。一方、ホアンリエン山脈を涵養域とする支流ではδ18Oが-12.9~-13.0‰、δ2Hが-91~92‰である。ラオカイとハノイの中間ではδ18Oが-11.6~-11.9‰、δ2Hが-82~84‰である。ホアンリエン山脈から流入する河川水は下流域への水質汚濁の影響を緩和しているといえる。
ヒ素は河川水試料から全ヒ素濃度と溶存ヒ素濃度を得ることができ、これらの差分を懸濁態ヒ素濃度とした。さらに、水試料を濾過して得られた懸濁物をXRDに使用し、懸濁物の鉱物組成を調べた。これらの結果から懸濁態として河川水中に存在するヒ素はスメクタイトと非常に高い正の相関(r2=0.92)を持ち、カオリナイトとも緩やかに正の相関を持つ(r2=0.55)ということが明らかになった。また、懸濁態として存在する鉄とヒ素には相関は見られなかった。
したがって、ヒ素は河川中では酸水酸化鉄と挙動していない。また、分析済みの懸濁物ではスメクタイトは紅河本流で採集したサンプルでのみ確認された。そのことから紅河では粘土鉱物(主にスメクタイト)に吸着することで上流域から下流へとヒ素が運ばれている可能性が高いと考えられる。