日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気海洋・環境科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS24_30PM2] 海洋生態系モデリング

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 311 (3F)

コンビーナ:*平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、伊藤 進一(独立行政法人水産総合研究センター)、座長:平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)

16:45 〜 17:00

[AOS24-06] 渦解像生態系モデルを用いた植物プランクトン多様性の形成メカニズム、種数の検討

*増田 良帆1山中 康裕1中野 英之2 (1.北海道大学 地球環境科学研究院、2.気象研究所)

キーワード:植物プランクトンの多様性, 海洋生態系モデル, 中規模渦

海洋の植物プランクトンは多様性に富んでおり、総計で約7万種以上が存在すると見積もられている(Guiry, 2012)。海洋が比較的単調な環境に見えるにも関わらず、これほどの多様性があるのは驚きであり、このような多様性を可能とする様々なメカニズムが提案されている。本研究では特にニッチ分割説、中立説(Hubbell, 2001)に着目し、数値モデルを用いて検証を行った。また、同時に共存可能な植物プランクトンの種数を決めるものは何かという問題にも取り組んだ。本研究では、数値モデルを用いた多様性の研究にいち早く取り組んだFollowsグループのモデル(Follows et al., 2007)とは異なり、棲み分けを先験的に可能にしているプランクトンファンクショナルグループを設けない方針を取った。また、海洋の中規模渦によって作られる物理環境の多様性が植物プランクトン多様性に大きな影響を及ぼしていると考え、渦解像モデル(水平解像度0.1度)を用いた。 海洋低次生態系モデルNEMURO、MEM を基に植物プランクトン多様性モデルを新たに開発し、気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)に組み込んだ。物理場は理想化した亜熱帯循環と亜寒帯循環を再現しており、計算領域は東西30度×南北30度の矩形領域である。標準実験では温度・栄養塩・光特性の異なる240の植物プランクトングループを設けた。栄養塩についてはアンモニアを含む窒素循環のみを再現しており、異なる栄養塩の利用による共生は考えない。動物プランクトン1グループによる捕食は植物プランクトン全体に比例し、数が少ないグループを有利にはしない。 240グループのうち、31クループが10年後に生き残った。亜寒帯では高栄養塩環境下で成長が早いグループ、亜熱帯では低栄養塩環境下で成長が早いグループが生き残る傾向があった。生き残りと絶滅を分けるメカニズムを調べるために、成長率(光合成速度-呼吸速度)を植物プランクトングループ毎に調べた。成長率で一位を取れる海洋の体積が大きくなるほど生き残る確率が高かった。成長率で一位を取れる海洋の体積が0だった118グループは全て絶滅した。 陸上植生では性能が劣る種でも生態的浮動によって系に長期間存在する可能性があり、このことは中立説をサポートすると考えられている。海洋植物プランクトンで中立説を検証する為、生き残った31種に最大光合成速度が98%となる31種を加えた実験を行った。性能の劣る31種は全て数年の時間スケールで絶滅へと向かった。よって、海洋植物プランクトンでは陸上生態系に比べると中立説が成立しづらいと推定される。 次にニッチ分割によって共存出来る種数の上限を調べる為、最も卓越する1グループをニッチが僅かに異なる200グループに分割する実験を行った。結果、200グループは長期間共存可能であった。このような分割を他のグループについても行えば、1000グループがこのモデル内で共存出来ると推定される。分割したグループが生き残るには成長率で一位を取れる海洋の体積がある値以上である必要があるが、この値はこれまでの実験から推定可能である。