18:15 〜 19:30
[BBG21-P04] 熱帯・亜熱帯海草藻場堆積物における有機炭素の保存機構 ── 非吸着態有機炭素の重要性とその起源
キーワード:炭素循環, 有機物, 沿岸海洋, アマモ場, 堆積物, 比表面積
陸棚域を含む沿岸海洋堆積物は、グローバルな炭素循環の中で有機炭素の主要なシンクとなっており、近年は特に二酸化炭素の吸収源として地球温暖化と海洋酸性化に拮抗する機能という観点から注目が集まっている。サンゴ礁・海草藻場・海藻群落等の浅海域大型一次生産者群落は、占有面積では必ずしも大きくないが、地球上で最も高い総一次生産ポテンシャルを有する生態系の一つであり、沿岸海洋堆積物への有機炭素の主要な供給源となっている可能性がある。特に海草藻場はそれ自身に堆積物の集積作用があることから、藻場自体が長期的な炭素固定・隔離容量を持つと期待されている。本研究では、熱帯(タイ)・亜熱帯(石垣島)・温帯(瀬戸内海)の海草藻場において、最長200 cmの堆積物コアをサンプリングし、堆積物中の有機炭素の蓄積状況について調査した。
海草藻場堆積物に含まれる有機炭素は、塩分補正後の乾燥重量に対して概ね500 - 1300 μmol C g-1の範囲に入ったが、マングローブからの流出物の影響を受ける熱帯海草藻場では時として4000 μmol C g-1に達することがあった。一方、海草の生育しない砂泥質干潟堆積物や、生育面積の小さな海草藻場堆積物では、500 μmol C g-1未満の場合がしばしば見られた。炭素安定同位体比(δ13C)は-28‰から-12‰の範囲であった。このことは、堆積物中の有機炭素の供給源として、海草自体(およそ-10‰)、植物プランクトン(およそ-22‰)、陸上植物(マングローブを含む、およそ-28‰)の三つに依存している事実を反映している。
沿岸海洋堆積物では一般に、有機炭素は堆積物粒子の表面に吸着することによって安定化すると考えられており、堆積物が熟成するにつれ、蓄積されている有機炭素(OC)の量と堆積物比表面積(SSA)との比率が一定の範囲(OC/SSA = 0.6 - 0.9 mg C m-2)に収斂することが知られている(Mayer 1994; Keil et al. 1994)。今回調査した海草藻場堆積物の場合、温帯域のアマモ場の試料ではOCとSSAとの間に強い相関が見られ、OC/SSA比は平均0.72 mg C m-2と、従来から知られている傾向と一致していた。これに対してアマモの生育しない裸地干潟や沖合の堆積物ではOC/SSA比がこれより低い場合が多かった。一方、亜熱帯・熱帯の海草藻場堆積物では、OCとSSAとの間に一定した関係が認められず、OC/SSA比は温帯アマモ場堆積物に比べて概して高かった。
熱帯・亜熱帯海草藻場においてOC/SSA比と有機炭素のδ13Cとの関係を調べたところ、変動性が二つの傾向に分類されることがわかった。第一の傾向は、主として熱帯海草藻場で見られ、OC/SSA比が大きくなるに従いδ13Cが-28‰から-26‰の範囲に収斂した。この範囲のδ13Cを示す有機炭素は、藻場の立地条件から、後背地のマングローブからの流出物に由来するものと考えられる。第二の傾向は、OC/SSA比が大きくなるとともにδ13Cが一貫して上昇する場合で、亜熱帯の海草藻場堆積物に典型的に見られた。OC/SSA比が3.5 mg C m-2まで上昇した時点でδ13Cは-12‰に達し、次第に飽和する傾向が見られた。これは、δ13Cが-10‰前後である海草の組織に由来するデトリタス粒子が堆積物中に徐々に蓄積する結果として現れるパターンと解釈することができる。
以上の結果は、海草藻場は実際に有機炭素を堆積物中に蓄積する高い機能を持つことを明らかにしている。しかし、海草藻場堆積物における有機炭素の蓄積・保存機構として、温帯のアマモ場堆積物の場合は、鉱物粒子表面への吸着による安定化が主要なメカニズムと考えられるのに対して、亜熱帯・熱帯の海草藻場では海草やマングローブに由来するデトリタス粒子の集積が重要な意義を持つという、顕著な相違があることが示唆された。このような有機炭素保存形態の違いが現れるメカニズムとその生態学的な意義について、今後さらに研究を進める必要がある。
海草藻場堆積物に含まれる有機炭素は、塩分補正後の乾燥重量に対して概ね500 - 1300 μmol C g-1の範囲に入ったが、マングローブからの流出物の影響を受ける熱帯海草藻場では時として4000 μmol C g-1に達することがあった。一方、海草の生育しない砂泥質干潟堆積物や、生育面積の小さな海草藻場堆積物では、500 μmol C g-1未満の場合がしばしば見られた。炭素安定同位体比(δ13C)は-28‰から-12‰の範囲であった。このことは、堆積物中の有機炭素の供給源として、海草自体(およそ-10‰)、植物プランクトン(およそ-22‰)、陸上植物(マングローブを含む、およそ-28‰)の三つに依存している事実を反映している。
沿岸海洋堆積物では一般に、有機炭素は堆積物粒子の表面に吸着することによって安定化すると考えられており、堆積物が熟成するにつれ、蓄積されている有機炭素(OC)の量と堆積物比表面積(SSA)との比率が一定の範囲(OC/SSA = 0.6 - 0.9 mg C m-2)に収斂することが知られている(Mayer 1994; Keil et al. 1994)。今回調査した海草藻場堆積物の場合、温帯域のアマモ場の試料ではOCとSSAとの間に強い相関が見られ、OC/SSA比は平均0.72 mg C m-2と、従来から知られている傾向と一致していた。これに対してアマモの生育しない裸地干潟や沖合の堆積物ではOC/SSA比がこれより低い場合が多かった。一方、亜熱帯・熱帯の海草藻場堆積物では、OCとSSAとの間に一定した関係が認められず、OC/SSA比は温帯アマモ場堆積物に比べて概して高かった。
熱帯・亜熱帯海草藻場においてOC/SSA比と有機炭素のδ13Cとの関係を調べたところ、変動性が二つの傾向に分類されることがわかった。第一の傾向は、主として熱帯海草藻場で見られ、OC/SSA比が大きくなるに従いδ13Cが-28‰から-26‰の範囲に収斂した。この範囲のδ13Cを示す有機炭素は、藻場の立地条件から、後背地のマングローブからの流出物に由来するものと考えられる。第二の傾向は、OC/SSA比が大きくなるとともにδ13Cが一貫して上昇する場合で、亜熱帯の海草藻場堆積物に典型的に見られた。OC/SSA比が3.5 mg C m-2まで上昇した時点でδ13Cは-12‰に達し、次第に飽和する傾向が見られた。これは、δ13Cが-10‰前後である海草の組織に由来するデトリタス粒子が堆積物中に徐々に蓄積する結果として現れるパターンと解釈することができる。
以上の結果は、海草藻場は実際に有機炭素を堆積物中に蓄積する高い機能を持つことを明らかにしている。しかし、海草藻場堆積物における有機炭素の蓄積・保存機構として、温帯のアマモ場堆積物の場合は、鉱物粒子表面への吸着による安定化が主要なメカニズムと考えられるのに対して、亜熱帯・熱帯の海草藻場では海草やマングローブに由来するデトリタス粒子の集積が重要な意義を持つという、顕著な相違があることが示唆された。このような有機炭素保存形態の違いが現れるメカニズムとその生態学的な意義について、今後さらに研究を進める必要がある。