日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT24_29AM1] 化学合成生態系の進化をめぐって

2014年4月29日(火) 09:15 〜 10:45 213 (2F)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)、座長:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)

09:15 〜 09:30

[BPT24-01] 南部マリアナ前弧しんかい湧水域の地質と生物

*小原 泰彦1高井 研2渡部 裕美2今野 祐多2石井 輝秋3ブルーマー シャーマン4小澤 元希5大西 雄二6藤井 昌和7 (1.海上保安庁海洋情報部、2.海洋研究開発機構、3.深田地質研究所、4.オレゴン州立大学、5.北里大学、6.岡山大学、7.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:化学合成生態系, 蛇紋岩, しんかい湧水域

世界最深部マリアナ海溝チャレンジャー海淵北東80 kmに位置する「しんかい湧水域(Shinkai Seep Field; SSF)」は、マントルかんらん岩に伴う、シロウリガイを中心とする化学合成生態系である。これまでにシロウリガイ類は、堆積物の分解に起因するメタンの湧水系に生息するもの(日本海溝・南海トラフ・相模トラフなど)と、高温の海底熱水系に生息するもの(ガラパゴスリフト・沖縄トラフなど)の大きく2種類が知られていたが、SSFにおいてマントル物質の冷湧水系に生息するシロウリガイ類が初めて発見されたこととなった。SSFは、2010年9月のYK10-12航海における「しんかい6500」による南部マリアナ前弧のマントルかんらん岩のマッピング調査の際に幸運にも発見された。しかし、発見時には、マントルかんらん岩とシロウリガイ類の採取には成功したものの、海水や堆積物の採取は行えなかった。その後、2012年1月のR/V Thomas G. ThompsonによるTN273航海において、深海曳航式サイドスキャンソナー(IMI-30)によるSSFの反射強度マッピングを実施し、高解像度の反射強度イメージを取得した。その結果、SSFはローカルな堆積性のマウンドに存在している可能性が示されたと同時に、そのようなマウンドが南部マリアナ前弧に多数存在している可能性が示された。この新しい化学合成生態系の地質・地球化学・生物学・微生物学を理解するため、次の科学目的を掲げて2013年9月にYK13-08航海において「しんかい6500」による調査を実施した:(1)SSFにおいて、「しんかい6500」の潜航により冷湧水ベントの発見・探査・湧水の採取を行うこと(2)反射強度マップで示されるマウンドにSSFと同様な湧水系が発達している、という仮説が提示できるのでその検証を行うこと(3)年代学を含め、南部マリアナ前弧の地質学的背景の理解、すなわちSSFという蛇紋岩生命圏の存在するセッティングの理解を完全なものとすること。YK13-08航海では、第1362潜航、第1365潜航および第1366潜航において、SSFを再訪し、堆積物コア試料採取、生物採取、ニスキンおよび保圧採水器による採水、溶存酸素および温度測定を実施すると共に、炭酸塩チムニーを発見し、サンプリングに成功した。また、第1363潜航と第1364潜航においては、SSFの西方約7 kmの斜面の地質調査を実施し、その部分がすべて蛇紋岩化したかんらん岩から構成されていることを確認した。一方、今回の潜航調査の限りでは、SSF以外に新たな湧水系を発見することができず、また、反射強度イメージで示されるすべてのローカルな堆積性のマウンドが湧水系に対応している訳ではないことが確認された。本講演では、YK13-08航海における成果を紹介し、SSFの地質と生物の議論を行う。