日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT24_29AM2] 化学合成生態系の進化をめぐって

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:30 213 (2F)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)、座長:渡部 裕美(海洋研究開発機構)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)

12:00 〜 12:15

[BPT24-11] シチヨウシンカイヒバリガイ共生系は実験室でも化学合成できるのか?

*長井 裕季子1豊福 高志1野牧 秀隆1和辻 智郎1生田 哲朗1高木 義弘1吉田 尊雄1滋野 修一1井上 広滋2小西 正朗3 (1.JAMSTEC、2.The University of Tokyo、3.Kitami Institute of Technology)

キーワード:laboratory culture, chemosynthetic organisms, Bathymodiolus septemdierum

深海化学合成生態系には化学合成独立栄養細菌と共生関係を持つ動物が生息していることが知られている。本研究で 用いたシチヨウシンカイヒバリガイ (Bathymodiolus septemdierum ) はエラ上皮細胞内に硫黄酸化細菌を共生させており、 共生細菌は熱水に含まれる硫化水素 (H2S) を利用しエネルギーを作り出し、二酸化炭素から有機物を合成している。こ のような共生関係の構築、維持機構は十分解明されていない。しかし、共生メカニズムを詳細に解明するためには共生 関係を維持したまま飼育し、詳細な生態観察や実験を行うことが極めて重要であるにも関わらず、その飼育方法は未だ 確立されていない。そこで本研究では H2S を添加維持できる水槽(小西&和辻,特許 2011-219498)を用いて、シチヨウ シンカイヒバリガイを飼育し、どのくらいの期間共生細菌が化学合成能を保持できるかを無機炭素取り込み量を指標と して検証を行った。飼育に用いた個体は 2012 年 4 月及び 2013 年 3 月に実施された研究船「なつしま」による航海で無人探査機「ハイパードルフィン」により採取した。本航海では伊豆小笠原弧明神礁のシチヨウシンカイヒバリガイを採取し、現場の水 温(約 4℃)に保ったまま研究室に持ち帰った。研究室では、まず硫化水素を継続的に供給できる硫化水素添加水槽に 個体を入れ 3 ヶ月及び 14 ヶ月飼育した。過去の知見から、H2S を添加しないで飼育した個体は 3 ヶ月で共生細菌がなく なることが知られている。今回、H2S 添加水槽での飼育個体の共生細菌が機能的であるかを確認するために無機炭素取 り込み実験を行った。実験では、13C 標識重炭酸ナトリウムを添加した海水で満たしたガラス瓶に、上記飼育個体を 1 個 体ずつ計 6 個体入れた。飼育水槽の H2S を含む海水を添加するもの (H2S 有) としないもの (H2S 無) の 2 つに実験群を 分け、14 日間の飼育を行った。ガラス瓶内の溶存酸素量の減少分を飼育個体の酸素呼吸量とみなし、H2S 添加の有無と ヒバリガイの呼吸量との関連を検討したが、明確な関係性は認められなかった。また、エラ組織から抽出した DNA によ る菌叢解析を行ったところ、14 ヶ月の飼育を行っても生息域と同じ共生細菌のみが検出され、他の化学合成独立栄養細 菌は獲得していないと考えられた。またすべての個体のエラ組織と共生細菌が認められないアシ組織について、有機物 の炭素同位体比を分析した結果、H2S を添加した条件で、有意に高く同位体ラベルした炭素が有機炭素として取り込ま れていることが確認された。このことから生息域から採取されて 14 ヶ月以上経っていても共生細菌が維持され炭素固定 能が失われず、H2S により無機炭素取り込みが昂進されることが示唆された。本実験結果は硫化水素添加水槽で飼育し た場合にシチヨウシンカイヒバリガイの共生細菌をかろうじてではあるものの、少なくとも機能的な状態で保持するこ とができ、実験室内でもシチヨウシンカイヒバリガイを化学合成させることが可能であることが示唆された。