日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT26_2AM1] 古代ゲノム学

2014年5月2日(金) 09:00 〜 10:45 421 (4F)

コンビーナ:*遠藤 一佳(東京大学大学院理学系研究科)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、座長:遠藤 一佳(東京大学大学院理学系研究科)

09:00 〜 09:15

[BPT26-01] 古代タンパク質の復元に基づく生物進化初期の温度環境推定

*横堀 伸一1赤沼 哲史1中島 慶樹1山岸 明彦1 (1.東京薬科大学生命科学部)

キーワード:コモノート, タンパク質の祖先配列復元, ヌクレオシド2リン酸キナーゼ, 好熱菌

初期の生命がどのような環境下で進化したかを明らかにすることは、地球上の生命の起源と進化を理解する上で重要である。地球上の生命の初期進化に関する地質記録は極めて限られている。よって、現生生物に系譜が繋がる祖先生物が、地球上のどのような環境に生育したのかを推測することは容易ではない。Woese et al. (1990, PNAS, 87: 4576-4579) が作製した16S/18S rRNAに基づく系統樹は、異論はあるものの、広く「標準的」系統樹として利用されており、全生物が共通祖先を持ち、3つの生物群(古細菌Archaea、真正細菌Bacteria、真核生物Eukarya)に分かれる事を示唆した。全生物の共通祖先が存在したとすると、その共通祖先がどのような生物であったかが、次の疑問となる。特に全生物の共通祖先の生育温度については、活発な議論がおこなわれて来た。「全生物の共通祖先が超好熱菌」であるという仮説がPace (1991, Cell, 65: 531-533 )によって提案されたが、その解釈に対する反論も多かった。しかしながら、これらの議論のほとんどは、分子系統解析により全生物の共通祖先の核酸のG + C 含量やアミノ酸組成を推定し、そこから生育温度を推論したものであり、実験的に検証されたものではない(例えばGaltier et al. (1999, Science, 283:220-221))。しかし、近年、分子系統解析による祖先タンパク質のアミノ酸配列の推定と、その配列をコードする祖先型遺伝子の実験的な復元が、過去の生物の性質を理解するために行われるようになって来た(例えばGaucher et al. (2003, Nature, 425: 285-288)。 我々は、祖先生物の生育温度を推定するため、現存する古細菌および真正細菌由来ヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)のアミノ酸配列の多重アライメントを用いて最尤法に基づく進化系統樹を作製し、古細菌共通祖先生物と真正細菌共通祖先生物が持っていたと予想されるNDKのアミノ酸配列を推定した。さらに、遺伝子工学的手法により復元した祖先型NDK遺伝子を大腸菌内で発現し、祖先型NDKの精製と熱変性測定をおこなった。復元した古細菌共通祖先、真正細菌共通祖先NDKは、どちらも変性中点温度が100℃を超える高い耐熱性を有していた。至適生育温度が異なる様々な微生物のNDKの変性温度が至適生育温度と強い相関を持つことから、これらの復元したNDKを持っていたと考えられる生物は超好熱菌であったと考えられる。さらに、祖先型アミノ酸推定の際の誤りや、祖先型配列推定の用いた系統樹の樹形が、復元した祖先型タンパク質の高い耐熱性には大きく影響しないことも明らかにした。また、古細菌共通祖先NDKと真正細菌共通祖先NDKの配列はよく似ており、全生物の最後の共通祖先生物(Commonote:コモノート)のNDKも同様なアミノ酸配列を持っていたことが期待される。古細菌共通祖先NDKと真正細菌共通祖先NDKの配列から全生物の共通祖先NDKの配列を作製すると、その変性温度は90℃以上であり、このNDKを持った全生物の共通祖先は75℃以上に生息する好熱菌であったと考えられる(Akanuma et al. 2013, PNAS, 110: 11067-11072)。以上の結果は、古細菌共通祖先生物、真正細菌共通祖先生物がともに(超)好熱菌であり、Commonoteが好熱菌であったことの実験的な証拠と言える。