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[BPT27-12] カンブリア紀前期における生物ポンプの強化:南中国三峡地域のエディアカラ系-下部カンブリア系の分子種別炭素同位体比測定
キーワード:エディアカラ紀, カンブリア紀, 酸素濃度, 分子化石, 南中国
動物の爆発的多様化事件当時の海洋における有機炭素循環を探るために、南中国三峡地域で掘削されたエディアカラ紀からカンブリア紀前期の陸棚堆積物試料について、光合成生物由来の有機物相の変化を記録する脂肪族炭化水素の分子種別炭素同位体比を初めて得た。短鎖n-アルカンとプリスタンの炭素同位体比間の差 (Δap) はエディアカラ紀では比較的高い値 (約-3~4‰) を示すのに対し、Terreneuvian (カンブリア紀最初期541-521 Ma) 前期に約-6‰まで減少した後、約6‰まで上昇し、Epoch 2 (カンブリア紀前期521-509 Ma) で約-4‰まで減少する。一方、プリスタンとフィタンの炭素同位体比間の差 (Δpp) は、エディアカラ紀に約0‰を示し、Terreneuvianに約-5‰まで減少し、Epoch 2に約6‰まで上昇する。また、軽い同位体比 (-45‰) を持つβカロタンがEpoch 2の黒色頁岩からのみ見つかった。Δppの変化は、エディアカラ紀の海中には単一の光合成生物コミュニティが存在したのに対し、カンブリア紀前期には複数存在したことを示唆する。Δapの減少は、真核光合成生物由来の脂質の埋没が増えたことを示し、Terreneuvian前期に動物の糞粒が出現し、海洋での生物ポンプが非常に強まってそれまで広大に存在していた溶存有機炭素リザーバーを縮小させたと考えられる。軽い同位体比を持つβカロタンと負のΔppは、嫌気的光合成生物が有機物の分解生成物由来のCO2を用いたことと、そのCO2が底棲生物の出現によってもたらされたことを示唆する。以上より、カンブリア紀前期の陸棚海域に初めて好気的光合成生物 (表層) と嫌気的光合成生物 (深海) の2つの光合成生物コミュニティが共存するようになったと考えられる。カンブリア紀最初期には、嫌気的水塊は陸棚の有光層にまで到達し、その状態はEpoch 2まで継続したらしい。また、好気的光合成生物由来の脂質の埋没量が増えたことは、微小殻動物群 (SSFs) の多様化が起きたTerreneuvian前期に生物ポンプが強化されたことと調和的である。