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[G02-08] 防災教育教材を通じた問題解決能力の育成 -4コマ漫画最後のセリフを考えよう-
キーワード:防災教育, 地震, 津波, 避難所, 中学校
東日本大震災によって科学と技術の限界が突きつけられた一方で,防災教育はそれらの不足を埋め合わせ,命を守るものになりうることがあらためて示された.震災後は多くの学校が防災教育を実施するようになったが,そのための授業活動時間・教材・指導要領などは依然として国から用意されていないのが現状である.本発表では,中学生を対象とした防災教育の教材開発について述べる.中学生は,発災時に命を守るための行動を自らの判断で瞬時に行うのはもちろんのこと,発災後の避難所などで起こりうる,正解のない問題に皆で取り組む能力を身につける必要があろう.例として,避難所に届いた救援物資の数が避難者数より少ない場合,避難所を運営する立場だったらどのように分配するべきかを考えてみる.授業としては,こういった状況が起こりうることを説明しつつ,避難所運営についての理解を深めること,そして与えられたテーマについてさまざまな考え方があることを互いに認め合い,話し合いを通じて解決をしていくことを促すものが望ましい.そこで我々は,教材として以下のような4コマ漫画を開発した.1コマ目:「地震発生から12時間後」などの状況説明,2コマ目:人物1によるセリフ「救援物資が届きました!100個です」,3コマ目:人物2によるセリフ「え?避難者は500人よ?」,4コマ目:再び人物1によるセリフ「次の物資はいつ来るのか...うーん.・・・.」.セリフは身近な人の写真から吹き出しで出ている.生徒たちは4コマ目の「・・・」のセリフを考え,グループで話し合いを行う.我々はこの教材を用いて,実際に中学校で授業を行った.得られた意見には,「まずはお年寄りや幼児から配布するべきだ」「避難してきたお年寄りだけで100名を越えた場合は,やはり病人を優先するべきではないか」「防災バッグを持ってきている人に協力を仰いではどうか」といったものがあった.これを年配者が多くいる同地域での一般市民講演で発表したところ,高齢者からは「若い中学生こそ先に食べるべきだ」といった意見が出た.そして結果的に,ひとりひとりが備蓄を用意し,必要な時にすぐさま取り出して避難できることが重要である,という内的説得力を持った気づきを得ることができた.本教材にはもうひとつの狙いがある.学校現場では,防災教育は必ずしも全教員で取組まれているものではない.授業時間として確保されていないことが大きな理由だが,やり方がわからない,専門知識を持っていない,などの不安の声も聞かれる.これらを踏まえ,筆者らは以下の点に注意を払って防災教育教材の開発を行っている.すなわち,現場教員が教材にさらに手を入れたり,ご当地バージョンとしたりできるものであること,紹介事例を見れば「私ならこうする」といったアイデアがすぐに浮かぶものであること,である.実際,発表者らは見学に来ていた教員らを対象に,授業実施後に改善を求める意見を聞いたところ,「本校の生徒総数を踏まえると500人の避難者は多すぎて実感がわかない」「中学生には,おにぎり100個などと具体性があった方がいい」「本校校長と教頭のやりとりとしてはどうか(両者の写真を活用する)」「他の班への質問時間を設けて,議論をさらに深めてみたい」といった意見が矢継ぎ早に挙げられた.本発表では,現場教員が作成した4コマ漫画で行われた授業事例も紹介しつつ,防災教育教材のあり方について論じる.