日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

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[G-02_29PM2] 地球惑星科学のアウトリーチ

2014年4月29日(火) 16:15 〜 18:00 423 (4F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:芝原 暁彦(独立行政法人 産業技術総合研究所  地質標本館 企画運営グループ)

16:30 〜 16:45

[G02-P02_PG] 火山の理解はどのように発展するか―成層火山形成実験を例に―

ポスター講演3分口頭発表枠

*笠間 友博1 (1.神奈川県立生命の星・地球博物館)

キーワード:実験, 成層火山, 断面図, 富士山, 児童生徒, 教員

2012年から2014年にかけて、笠間ほか(2010)の複成火山作製実験を神奈川県と静岡県の26の小・中・高学校等で行った。その際参加者に、火山体の断面予想図と切断した断面のスケッチを共通の書式で描いてもらった。これについては,図がいくつかのパターンに分けられ(笠間,2012a)、学齢による変化傾向も見られる(笠間,2012a)ことが予察的な報告で明らかになっているが、今回はこれらの多くのデータ(1409人)をもとに詳細な解析を行った。その結果、学齢、学区、火山に対する興味関心による違いが明らかとなった。学区について調査地域内では、とりわけ富士山がよく見える地域とそうではない地域によって有意な差が生じた。これらは、火山に対する理解がどのように発展していくのかを考えるうえで重要な示唆を与えていると考えられる。
Fig.1に1つの結果を示す。成層火山内部を水平層で描いた図を水平タイプ(HT)、笠間ほか(2010)の実験で形成される成層火山に見られる下位の水平層から上位の傾斜層まで各層の傾斜変化を描いている図を実験タイプ(ET)、教科書によく見られる相似三角形の重ね合わせの概念図を教科書タイプ(TT)と呼ぶことにし、実験前の図にはB、実験後の図にはAを最後に付けて図を分類した。Fig.1はHTBの割合とETA割合を示したもので、両者には概ね負の相関関係がみられた。ETAは学齢とともに上がる傾向が見られ、観察力の指標になると考えられる。一方、HTBは地層の概念は認められるものの、火山地質としては誤った背景知識である。これは小学校6年生で行われる地層の授業の影響が大きいと考えられ、6年生で最大、3,4年生中心のグループ(インターナショナルスクール4年生と公民館イベント)や5年生の入っているグループ(PTAイベント)では少なく、中学生以上でも学齢とともに減る傾向が見られる。小学校教員のデータ(理科研修会)も1例あるが、HTBが存在し、ETAも高校生を超えることができなかった。小学校教員は多方面の知識能力が要求されるので、理系に特化はできないものの、心配なデータである。一方で、科学部(中高一貫校の中学生、高校生の混成部員よりなる)ではHTBは皆無であったが、中学生を含みETAはやや下回った。この他、TTBとETAには正の相関関係がみられた。TTBは教科書等から得られる正しい背景知識である(厳密には正確ではないが)。しかし、火山体内部の層構造は高校でも直接扱わないので、ETBは火山への興味・関心の現れとすると、興味関心と観察力に相関関係が出たと考えられる。また、ETBとETAにも正の相関関係が見られた。しかし、割合は少なかった。理由は、ETBは教科書にはなく思考力が必要であるためと考えられる。
 成層火山の山体斜面輪郭についても、スコリア丘のような単純な直線斜面の図(SL)、溶岩ドームのような上に凸の曲線の図(CV)、成層火山に見られる下に凸の曲線の図(CC)に分類した。CCBについて最も割合が高かったのは、静岡県清水区にある高校であった。校舎から富士山が裾野までよく見える立地条件にある。小学校では三島市内の学校が高かったが、これも同様の場所であった(ともに作図時は富士山が見えない条件で行った)。神奈川県西端の箱根町、湯河原町は富士山に近いにもかかわらず値が高くなかった。これは富士山が箱根外輪山により見えないためと考えられる。
【文献】
笠間友博・平田大二・新井田秀一・山下浩之・石浜佐栄子(2010)食用廃油を使用した複成火山作製実験の開発.地学教育,63,5・6,163-179.
笠間友博(2012a)小学6年生が描く成層火山断面図 教科書タイプ・水平タイプ・実験タイプ.日本地球惑星科学連合2012年大会講演要旨,G02-P09, 千葉.
笠間友博(2012b)児童生徒が描く成層火山断面図-実験実践から学齢による変化を探る-.日本地質学会2012年度学術大会(大阪大会)講演要旨,R19-O-8.