日本地球惑星科学連合2014年大会

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[G-02_29PO1] 地球惑星科学のアウトリーチ

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)

18:15 〜 19:30

[G02-P10] 初等環境放射能教育コンテンツと高大連携教育

*遠藤 岬1山中 雅則2 (1.日本大学大学院理工学研究科、2.日本大学理工学部)

キーワード:放射能教育

放射能あるいは放射線の物理は,19世紀末から20世紀初期における物理学の発展と非常に密接な関連がある.これは,可視光,聴覚,温度,味覚等とは異なり,放射能を直接感じ取る器官を人類が持たないために,極めて不思議な現象であるとして解明が進められたということがその要因の一つとしてとらえることができる.ところが,この科学史上重要であり,かつ不思議な物理現象は,初等あるいは中等教育においてはほとんど教えられることがなく,高等学校の物理IIにおいて最終の単元として取り扱われているに過ぎない.このような背景と相まって,2011年の東日本大震災に引き続いて発生した原子力発電所事故以降,放射能に関する物理学を学んでこなかった世間一般の人が放射能に直面することとなり,放射能に関する直観的及び感覚的な理解について混乱が生じていると考えられる場面も散見されるようになった.
 以上の背景をふまえて,初等的な放射能教育に関する指導案を作成し,高大連携教育等において実践した結果を報告する.この指導案の要点は以下の4つからなる.
(I) 人間は微量の放射線を直接的に感じ取る器官を持ち合わせていない為に, 放射能や放射線を実態として認識する事が出来ない.このため,経験的,直観的理解を深めるためには実験が重要となる.
(II) 放射線は原子核自体の変化や原子の電子状態の変化に起因する現象であり,本質的に確率・統計的な現象である.
(III) 実験が重要であるにもかかわらず,初等中等における物理教育では実験を行う機会が少ないという問題点がある.また,確率・統計については敬遠し,苦手意識をもつ生徒が多いという現実がある.逆に適切な演示を行うことができれば,原子核の物理学の詳細や理論武装を強調することなく,放射線更には確率・統計分野について経験的,直観的な理解を深めることは可能であると考えられる.
(IV) 私たちは,周囲に存在している環境放射能を普段の生活で放射線を浴びているという事実があり,それは場所や周囲の環境によって大きく値が異なる事が知られている.

 授業案
(1)原子・原子核の観点から見た放射線について物理・確率的側面の説明.
(2)自然界の宇宙線,地質,建物,食品などに由来する放射線である環境放射能に関する基本的内容の説明.
(3)実際に,種類の多数ある放射線計測器の内,ガイガーミュラー式放射線計測器(数種類),半導体式放射計測器(2種類),シンチレーション式放射線計測器(5種類)をランダムに配置し,同時に動作させ数値を観察.
(4)数値の揺らぎや,それぞれの計測器ごとの値の相違などついてまとめる.
(5)計測器を同一の動作原理ごとにグルーピングしたのち,同時に動作させ動作原理や検出効率による誤差,数値の揺らぎ等の説明しながら再度観察.
(6)シンチレーション式スペクトロメーターを用いて計測を行い,原子核の簡易分光や核種分析の基礎と重要性について説明.
 受講者の主な反応
(1)放射線計測器の表示する数値の揺らぎの大きさと,放射線計測器の種類に応じて表示される値が大きく異なることについて意外であるという意見がほとんどである.
(2)多くの場合,生徒よりもホスト側教員の方が熱心である.これは,スペクトロメーターの普及が皆無であることが原因ではないかと考える.
 これらの実践で,受講者の放射線・放射能に関する誤解の低減及び,放射線を数値だけでなく核種分析をする事の重要性や放射能・放射線に関する物理への関心・意欲を高めることが期待できる.