日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04_29AM2] 高等学校の地球惑星科学教育

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 423 (4F)

コンビーナ:*畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)

11:30 〜 11:51

[G04-08] 高校地学教育は盤石か?

*中島 健1 (1.滋賀県立大津清陵高等学校・通信部)

キーワード:高校地学教育, 教科書需要数, 教員採用数, 地学基礎

高校の学習指導要領改訂の結果,「地学基礎」の履修者数は,前課程「地学I」の履修者数の約3倍に増加した。しかしそのことを以て高校地学教育の重要性が教育界に再認識されたといえるかどうか,教科書需要数と教員採用数の観点から考察する。また教科書の内容が以前と比べどのように変わったかについても議論する。(1)教科書需要数の推移 前課程の期間中,移行期を除いた2005~2011年度,ほぼ全員が履修すると考えられる「数学I」「英語I」「保健」が約136万~128万であったのに対し,「地学I」は約11~9万(8~7%)と,その割合に変化はなかった。2012年度からの現行課程開始後,それが完成する2014年度には「数学I」「コミュニケーション英語I」「保健」が約128万に対し「地学基礎」が約32万(25%)と,履修者の割合は3倍近くに増えた。理科の基礎3科目必履修化の効果があったようにみえる。しかし前々課程で置かれていた「地学IA」「地学IB」が合わせて26万であったことを考えると,その水準をやや上回る程度であり,前課程で「理科総合A/B」が必履修とされたため減少していた基礎系科目の履修者が戻っただけともいえる。また標準単位数で見ると「地学IA」=2,「地学IB」=4,「地学I」=3,「理科総合B」の地学分野=1相当であったのが,現行の「地学基礎」=2と大きく減っている。代わりに「地学II」=4→「地学II」=3→「地学」=4と,発展系科目の方は現行課程になって標準単位数が増えた。しかし地学の発展系科目履修者は全国でわずか1万前後しかいない。このため,  国内総学習量(GDL)=Σ(各科目履修者数×標準単位数)というような指標を考えると,地学領域では  (2001年)90万[人・単位]→(2007年)89万[人・単位]→(2014年)88万[人・単位]つまり量は増えたように見えても質(学習内容)では大きく躍進したとはいえない。(2)理科の他3領域との比較理科の他3領域について2001年→2007年→2014年の基礎系科目履修者数の推移を見ると,次のようになる。  物理基礎系科目履修者数: 66万[人]→37万[人]→ 74万[人]  化学基礎系科目履修者数:145万[人]→72万[人]→103万[人]  生物基礎系科目履修者数:124万[人]→80万[人]→109万[人]いずれも地学基礎系科目の履修者数と比べると,2~3倍と多くなっている。また物理の増加が目立ち,基礎3科目必履修化の影響は物理にプラスに働いたようにみえる。また各領域のGDLの推移をみると,次のようになる。  物理領域GDL:295万[人・単位]→263万[人・単位]→260万[人・単位]  化学領域GDL:593万[人・単位]→392万[人・単位]→364万[人・単位]  生物領域GDL:515万[人・単位]→358万[人・単位]→358万[人・単位]いずれも地学領域のGDLと比べると3~4倍の多さである。必ずしも基礎3科目必履修化が地学にプラスに働いたとはいえないことが,ここからもわかる。(3)地学専門教員採用数 2010~2012年度の3年間に各都道府県・政令市で採用された高校理科教員は約3200名であった。そのうち「地学」で採用された者はわずか35名に過ぎない。科目限定なしの募集や,中高くくり募集のところもあるため高校地学を担当する教員数がこれだけとは限らないが,多く見積もっても2桁の数にしかならないだろう。これは地学専門教員の定年退職後不補充,したがって総数が減少の一途であることを意味する。地学非専門教員が教えるに当たって最も苦手(自信がない)と感じるのが地学領域であることを考えると,地学教育の停滞は体制的なものから来ていると考えざるを得ない。地学教育界としての早急な対応が必要である。<参考>時事通信社:高校教科書採択状況,内外教育,2001~2014    東京アカデミー:教員採用試験最終合格者数,WEB