日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG36_29PM1] 原子力と地球惑星科学

2014年4月29日(火) 15:15 〜 16:00 411 (4F)

コンビーナ:*梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

15:15 〜 15:30

[HCG36-01] 結晶質岩におけるボーリング調査の進展に伴う亀裂の分布特性に関するデータの変遷

*石橋 正祐紀1笹尾 英嗣1中嶌 誠門2渥美 博行2尾上 博則1三枝 博光1川端 淳一2升元 一彦2瀬野 昭治2岩野 圭太2 (1.日本原子力研究開発機構、2.鹿島建設 株式会社 技術研究所 岩盤・地下水グループ)

キーワード:ボーリング調査, DFNモデル, 調査方法, 亀裂密度

高レベル放射性廃棄物の地層処分やLPGの地下備蓄など,地下空間の利用にあたっては,割れ目や断層などの地下水の流動経路となる地質構造の把握が重要であり,特に結晶質岩のような亀裂性媒体では,亀裂の分布特性を明らかにする必要がある。地下深部における結晶質岩中の亀裂の分布は主にボーリング調査で把握されるが,亀裂の走向傾斜とボーリング孔との交差角に起因する遭遇率の違いより,ボーリング調査で取得した情報に基づく評価には過不足が生じることが考えられる。亀裂の分布特性を精度よく把握するためには,ボーリングの調査量を増やすことが考えられるが,必要な調査量や調査手順と言った調査の最適化のための方法論は十分に確立されているとは言えない。そこで,本研究では,100m立方領域でのボーリング調査の進展に伴う亀裂の分布特性に関する情報量の変化について検討した。本研究では,瑞浪超深地層研究所の深度300mの水平坑道に分布する土岐花崗岩を対象に亀裂ネットワークモデル(DFNモデル)を構築し,モデルに仮想ボーリング孔を掘削した際の単位長さあたりの亀裂数(以下,P10)に着目した。DFNモデルは,100m立方の空間を対象に,亀裂の長さはべき乗分布,亀裂方位分布はFisher分布,亀裂の空間分布はポアソン分布を仮定した。構築したDFNモデルのP10(以下,P10DFN)は,1.58本/m(このうち,NW走向高角度傾斜の亀裂(卓越方位はN29°W87°E)は1.34本/m,NE走向高角度傾斜の亀裂(卓越方位はN43°E88°W)は0.12本/m,中~低角度の亀裂(卓越方位はN25°E8°E)は0.12本/m),べき乗数は4.0である。仮想ボーリング孔は,DFNモデル中央部を通過するように,EW,NS,鉛直の各方向に5本(各100m)を配置した。仮想ボーリング孔と交差した亀裂のP10(以下,P10BH)の平均は,EW方向の水平孔(以下,EW孔)で1.87本/m(1.18~1.95本/m),NS方向の水平孔(以下,NS孔)で1.13本/m(0.91~1.24本/m),鉛直方向の孔(以下,鉛直孔)で0.78本/m(0.73~0.83本/m)であった。P10BHとP10DFNとを比較すると,EW孔で0.29本/m,NS孔で0.45本/m,鉛直孔で0.8本/mの差が認められ,鉛直孔で最も大きな相違となった。亀裂の卓越方位ごとにみると,鉛直孔では中~低角度の亀裂群についてはP10BHがP10DFNよりも大きく,NW走向高角度傾斜の亀裂群についてはP10DFNよりも小さい。すなわち,鉛直孔で遭遇しやすい中~低角度の亀裂群が過大に評価され,DFNモデル中で最も卓越するNW走向高角度傾斜の亀裂群は過小評価されており,亀裂方位ごとに取得される情報の偏りが確認された。そのため,亀裂群との遭遇率が等しくなると考えられる亀裂の卓越方位の法線ベクトルの平均方向を掘削方向とした仮想ボーリング孔(以下,法線平均孔)について検討した。その結果,法線平均孔でのP10BHの平均は1.45本/m(1.34~1.67本/m)で,P10DFNとの差が0.13本/mとなり,EW孔,NS孔および鉛直孔およびそれぞれで得られたP10BHの和の平均よりもP10DFNに近い値が得られた。すなわち,亀裂の方向分布を考慮せずに掘削されたボーリング孔で得られるP10の平均を用いても,取得されたデータの偏りを補正することは困難であると考えられる。次に,仮想ボーリング孔の掘削方位ごとの調査量とP10BHの変化について検討した。その結果,全方向の仮想ボーリング孔において,約100m~200m分(仮想ボーリングで1~2本)掘削した段階でP10BHが安定する傾向が認められた。また,安定した際のP10BHは,各方向の5本の仮想ボーリングで得られたP10BHの平均に概ね等しい。このことから,同一方向の調査量を増やしても,ある調査量に達した時点で,得られる情報の変化は小さくなり,その値は同一方向の調査で得られる情報の限界を示していると考えられる。以上のことから,坑道から100m立法領域の調査を想定すると,亀裂の空間分布が一様な場を対象とする場合は,総掘進長を約100m以上とし,掘削方向は亀裂との遭遇率が均一となる方向(亀裂の卓越方位の法線ベクトルの平均方向)を選択することが有効と考えられる。本研究の結果,亀裂の分布特性に関するデータを取得するためには,亀裂の卓越方位との遭遇率を考慮した調査計画を立案し,調査の進展とデータの関係から調査量の十分性を考慮することが重要であることが示唆された。すなわち,亀裂分布が一様と想定できる場においては,既存情報などから把握された亀裂の卓越方向に基づいて掘削方向を決定し,最初のボーリング調査の結果から得られた亀裂の卓越方位分布から,再度掘削方向を検討することが有効と考えられる。