日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG36_29PM2] 原子力と地球惑星科学

2014年4月29日(火) 16:15 〜 17:45 411 (4F)

コンビーナ:*梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、座長:吉田 英一(名古屋大学博物館)

16:30 〜 16:45

[HCG36-05] ヘリウム同位体比を考慮したベイズ統計学による未知の活断層の評価

*マーティン アンドリュー1石丸 恒存2梅田 浩司2浅森 浩一2 (1.スイス放射性廃棄物管理共同組合、2.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

キーワード:活断層, ベイズ法, ヘリウム同位体比

放射性廃棄物の地層処分のサイト選定や原子力施設の安全性評価などを念頭に,我が国においては地質環境の長期安定性に関する研究など多くの研究開発が進められてきているが,その中で活断層の時空分布を理解することは特に重要と考える。この場合,地表部に破断が及んでいなかったり地形に痕跡の残らない活断層(いわゆる「未知の活断層」)の存在をどのように考慮するかということが課題である。一般に火山地域の地下水中に検出される高He-3/He-4比は,非火山地域の地下水中にも検出される場合がある。非火山地域の高He-3/He-4比は断層等を移行経路としたマントル物質の脱ガスが原因であると考えられている(例えばKennedy et al.,1997)。鳥取県西部地域を対象とした研究(Umeda and Ninomiya, 2009)では,He-3/He-4比の分布が2000年鳥取県西部地震(Mw 6.8)の震源断層(地震以前は活断層として認定されていなかった)の存在を示す間接的な証拠となりうる可能性を示した。本発表では,この仮説を定量的に表現するため,He-3/He-4比をベイズ法によって組み込んだ推論モデルの開発について紹介する。ベイズ法の枠組みにおいて,まず最初に研究対象地域のテクトニックセッティングに基づく先験的前提(a priori assumption)を設定する。既知の活断層のトレースは,同じ距離間隔をもったセグメントに区分されている。未知の活断層セグメントは,既知の活断層セグメントの分布からそれほど離れていないということを今回の先験的前提としている。さらに, 既知の活断層からの距離が近いほど対象地域での「未知の活断層」の存在確率は大きくなると仮定する。そして,既知の活断層セグメント分布を中心としてカーネルファンクション(kernel functions)を用いて(Martin et al., 2003),未知の活断層の存在について二次元の事前(a priori)確率分布を計算する。その際,未知の活断層セグメントの存在確率が離間距離に応じてゼロにならないように,保守的にコーシー確率密度関数(PDF)を選択している。次の段階ではMartin et al.(2004, 2012)による手法を適用して,コルモゴルフ・スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov statistical tests)に基づいてHe-3/He-4比の分布を「Likelihood関数」と呼ばれているPDFの中に再配置する。そして,ベイズの定理を用いて,事前確率分布とLikelihood関数を組み合わせて事後(a posteriori)確率分布を計算する。2000年鳥取県西部地震が起こる以前のデータを使って計算した事後確率分布では,未知の活断層の存在確率が震源域において増加していることが示された。言い換えれば,鳥取県西部地域を対象に計算した事後確率分布は,活断層がマントル起源の希ガスの移行経路となっているという仮説を裏付けるものとも言えるだろう。発表では,今回の手法を用いて他のデータ(例えば重力・地殻の歪み速度など)を組み込む可能性についても議論する。引用文献Kennedy et al. (1997), Mantle fluids in the San Andreas fault system, California, Science, 278, 1278-1281.Martin et al. (2003) Acta Geophys. 51, 271-289Martin et al. (2004) J. Geophys. Res., 109, B10208, doi:10.1029/2004JB003201.Umeda, K. and Ninomiya, A. (2009) Geochem. Geophys. Geosys., 10, Q08010, doi:10.1029/2009GC002501.Martin A. J., Umeda K. and Ishimaru T. (2012) InTech Pub., doi:10.5772/51859