18:15 〜 19:30
[HCG36-P04] 幌延深地層研究計画の350m調査坑道における断層と水みちの産状
キーワード:水理地質構造モデル, 断層, 水みち
1.はじめに
日本原子力研究開発機構は,幌延深地層研究計画において堆積岩を対象とした水理地質構造の調査評価技術の開発を行っている。2014年1月までに深度350mに総延長約740m の水平な調査坑道(以下,350m調査坑道)が掘削された。本発表では,地上からの調査に基づく水みちになりうる地質構造の分布の予測を踏まえ,350m調査坑道において行われた坑道壁面の地質観察の結果に基づいて断層や節理などの地質構造の特徴を示す。
2.地上からの調査に基づく350m調査坑道の水みちに関連する断層の分布の予測
これまでに行った地上からの調査により構築された地質構造モデルに基づくと,350m調査坑道には新第三紀の珪質泥岩を主体とする稚内層が分布する。また,350m調査坑道は北北西方向の背斜構造の西翼部に位置し,層理面の方向は,北西走向で40度程度南西に傾斜する。350m調査坑道には,地質図スケールの大規模な断層は分布せず,確率論的に取り扱われる小断層として,層理面に高角な横ずれが卓越する断層(以下,高角断層)と層理面にほぼ平行な縦ずれが卓越する断層(以下,層面断層)が分布する。250m調査坑道などの過去の観察結果から,高角断層は,雁行状に配列したスプレークラックを伴い,それにより連結して主要な水みちとなる小断層帯を形成する概念モデルが示されている。一方,層面断層が水みちとして機能している可能性は低いと考えられている。それらの既存情報を踏まえて,350m調査坑道の湧水箇所を予測するため,近傍の地上からのボーリング孔において実測された高角断層の方向と,その断層幅から推定した断層の大きさに基づき高角断層の分布を推定した。その結果,北東-南西走向または東-西走向を有する19条の高角断層が抽出され,そのうち,6条が350m調査坑道と交差すると推定された。特に,最も規模の大きい高角断層(以下,F1断層)は,北東-南西走向を有し,350m調査坑道の領域の中央部を通過して北東側の坑道を横断すると推定された。
3.坑道壁面の地質観察結果に基づく350m調査坑道に分布する断層の特徴
350m調査坑道における地質観察では,いくつかの高角断層が観察された。これらの位置や方向は,地上からの調査に基づく予測結果とおおよそ整合的である。また,少なくとも7条の連続性の良い層面断層が観察された。ほとんどの場合,高角断層は層面断層を変位させている。F1断層は,予測の通り350m調査坑道の南西側から中央部付近にかけて観察された。一方,350m調査坑道の北東側では,F1断層は観察されず,層面断層の一つである最大30㎝程度の幅の断層角礫ないし断層粘土を介在する断層(以下,S1断層)が観察された。350m調査坑道では,掘削前にグラウト工を実施したため,本来の湧水状況を観察することはできないが,予測の通り,ほとんどの高角断層近傍において湧水が認められた。特に,層面断層との交差部近傍では比較的湧水が多い傾向が認められた。一方,層面断層であるS1断層近傍の北東側の坑道においても大量の湧水が発生し,追加のグラウト工を行っている。350m調査坑道の地質調査の結果,掘削前に注入されたグラウト材は,断層岩を介在する断層そのものよりむしろ断層近傍に発達する節理に浸透する傾向がみられ,S1断層近傍の産状も同様である。このことから,断層そのものよりむしろその近傍で発達する節理がより主要な水みちとして寄与している可能性が示唆される。
4.今後の課題
350m調査坑道の掘削時に実施された坑道壁面地質観察のデータは,地上からの調査に基づく水理地質構造モデルの妥当性確認に用いられる。また,地下施設建設における実施設計の妥当性確認のための基礎データとしても活用できる。今後,詳細なスケールでのモデル化を行う際には,断層近傍で発達する節理の水みちへの寄与を考慮し,さらには高角断層と層面断層の関係を踏まえた概念モデルの更新が重要となる。
日本原子力研究開発機構は,幌延深地層研究計画において堆積岩を対象とした水理地質構造の調査評価技術の開発を行っている。2014年1月までに深度350mに総延長約740m の水平な調査坑道(以下,350m調査坑道)が掘削された。本発表では,地上からの調査に基づく水みちになりうる地質構造の分布の予測を踏まえ,350m調査坑道において行われた坑道壁面の地質観察の結果に基づいて断層や節理などの地質構造の特徴を示す。
2.地上からの調査に基づく350m調査坑道の水みちに関連する断層の分布の予測
これまでに行った地上からの調査により構築された地質構造モデルに基づくと,350m調査坑道には新第三紀の珪質泥岩を主体とする稚内層が分布する。また,350m調査坑道は北北西方向の背斜構造の西翼部に位置し,層理面の方向は,北西走向で40度程度南西に傾斜する。350m調査坑道には,地質図スケールの大規模な断層は分布せず,確率論的に取り扱われる小断層として,層理面に高角な横ずれが卓越する断層(以下,高角断層)と層理面にほぼ平行な縦ずれが卓越する断層(以下,層面断層)が分布する。250m調査坑道などの過去の観察結果から,高角断層は,雁行状に配列したスプレークラックを伴い,それにより連結して主要な水みちとなる小断層帯を形成する概念モデルが示されている。一方,層面断層が水みちとして機能している可能性は低いと考えられている。それらの既存情報を踏まえて,350m調査坑道の湧水箇所を予測するため,近傍の地上からのボーリング孔において実測された高角断層の方向と,その断層幅から推定した断層の大きさに基づき高角断層の分布を推定した。その結果,北東-南西走向または東-西走向を有する19条の高角断層が抽出され,そのうち,6条が350m調査坑道と交差すると推定された。特に,最も規模の大きい高角断層(以下,F1断層)は,北東-南西走向を有し,350m調査坑道の領域の中央部を通過して北東側の坑道を横断すると推定された。
3.坑道壁面の地質観察結果に基づく350m調査坑道に分布する断層の特徴
350m調査坑道における地質観察では,いくつかの高角断層が観察された。これらの位置や方向は,地上からの調査に基づく予測結果とおおよそ整合的である。また,少なくとも7条の連続性の良い層面断層が観察された。ほとんどの場合,高角断層は層面断層を変位させている。F1断層は,予測の通り350m調査坑道の南西側から中央部付近にかけて観察された。一方,350m調査坑道の北東側では,F1断層は観察されず,層面断層の一つである最大30㎝程度の幅の断層角礫ないし断層粘土を介在する断層(以下,S1断層)が観察された。350m調査坑道では,掘削前にグラウト工を実施したため,本来の湧水状況を観察することはできないが,予測の通り,ほとんどの高角断層近傍において湧水が認められた。特に,層面断層との交差部近傍では比較的湧水が多い傾向が認められた。一方,層面断層であるS1断層近傍の北東側の坑道においても大量の湧水が発生し,追加のグラウト工を行っている。350m調査坑道の地質調査の結果,掘削前に注入されたグラウト材は,断層岩を介在する断層そのものよりむしろ断層近傍に発達する節理に浸透する傾向がみられ,S1断層近傍の産状も同様である。このことから,断層そのものよりむしろその近傍で発達する節理がより主要な水みちとして寄与している可能性が示唆される。
4.今後の課題
350m調査坑道の掘削時に実施された坑道壁面地質観察のデータは,地上からの調査に基づく水理地質構造モデルの妥当性確認に用いられる。また,地下施設建設における実施設計の妥当性確認のための基礎データとしても活用できる。今後,詳細なスケールでのモデル化を行う際には,断層近傍で発達する節理の水みちへの寄与を考慮し,さらには高角断層と層面断層の関係を踏まえた概念モデルの更新が重要となる。