日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG36_29PO1] 原子力と地球惑星科学

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)

18:15 〜 19:30

[HCG36-P06] 地中レーダにより推定した森林土壌の分布と放射性セシウムの深度分布の関連性

*渡辺 貴善1三田地 勝昭1阿部 寛信1新里 忠史1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:地中レーダ, 放射性セシウムの深度分布, F-TRACEプロジェクト

東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウムは,山林や市街地に降下した.市街地では環境省・地方自治体により除染活動により空間線量率の低減が進められている.これに対して,生活圏から離れた森林においては除染に関わる試験が行われている段階である.未除染の森林域から隣接した生活圏に放射性セシウムが移動することにより,生活圏での空間線量率の空間分布や時間的な変化を引き起こす可能性が考えられる.日本原子力研究開発機構では「福島長期環境動態研究プロジェクト」(以下,F-TRACE プロジェクト)を2012年11月に開始し,現時点における放射性セシウムの分布状況とともに,森林域から流出する放射性セシウムが生活圏や河川,河口域へと移動する状況を明らかにし,それらを踏まえた放射性セシウムの空間的及び時間的な変化に係る将来予測と移動抑制対策の提案を目的とした研究を行っている.
現時点において放射性セシウムの主な供給源である森林域では,放射性セシウムは雨水の浸透に伴い土壌中を深度方向へ移動するだけでなく,落ち葉や土壌に付着し表面流により森林内を水平方向に移動すると考えられる.これらの移動現象は気象条件,植生,地形及び土壌条件により異なることが予想される.そのため,F-TRACEプロジェクトの森林調査では,それら条件が異なる川内村下川内地区(常緑針葉樹林,褐色森林土)と川俣町山木屋地区(落葉広葉樹林,真砂土及び褐色森林土)を調査地点に選定し,2012年12月から植生や土壌断面,空間線量率等の現地調査,採取した落ち葉と土壌に含まれる放射性セシウムの分析を進めている.本論では,放射性セシウムの移動現象に係る諸条件のうち森林内の土壌分布について,地中レーダ探査,貫入式土壌硬度計データ及び現地での土壌断面調査から推定される結果とともに,深度方向における放射性セシウム分布との関連性について報告する.
地中レーダ探査は,10 MHzから1 GHz程度の電磁波を送信アンテナから地中に向けて放射し,地下で反射した電磁波を地上の受信アンテナで検出することにより,地下浅部の構造,すなわち土壌分布を推定する手法である(物理探査学会,1999).地下に放射された電磁波は,導電率や誘電率等の電気特性が異なる境界,具体的には地下の空洞,埋設物,亀裂,土壌・地層境界の上面及び地下水面などで強い反射を示す.このため,土壌ごとに構成鉱物や間隙率,水分量等の物質移動に係る諸特性が異なれば,本探査によりそれらの地下での分布を検出することができると期待される.特に,周波数の高い送信アンテナを使用した場合には,地下深部の情報は得られないが,地下浅部の詳細な情報を得ることができる.
本研究では,土壌分布の概要を把握するために100 MHzのアンテナを使用し,空洞等の地下浅部の構造を把握するために500 MHzのアンテナを使用し地中レーダ探査を行った.森林内の土壌分布は,大まかには尾根や谷,斜面などの地形に依存することが知られている(塚本,1992など).このため本探査では,森林内の谷地形に沿う測線および等高線に沿う測線を設定した.土壌硬度計による貫入試験及び土壌採取で成形された土壌断面の調査は,地中レーダ探査の測線に沿い実施した.

文献
物理探査学会編,1999,物理探査ハンドブック,東京.
塚本良則,1992,森林水文学,p.319,文永堂出版,東京.