日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37_30PM1] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2014年4月30日(水) 14:15 〜 16:00 421 (4F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、藤野 滋弘(筑波大学生命環境系)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、座長:藤野 滋弘(筑波大学生命環境系)

14:30 〜 14:45

[HCG37-02] 海域の洪水・斜面崩壊堆積物にみられる陸源有機炭素率の層位変化パターン

*大村 亜希子1池原 研2片山 肇2宇佐見 和子2入野 智久3加 三千宣4芦 寿一郎5 (1.学振RPD,東京大学、2.産業技術総合研究所、3.北海道大学、4.愛媛大学、5.東京大学)

キーワード:タービダイト泥, 半遠洋性泥, 有機炭素, 自然災害

海域のタービダイトを利用して過去の自然災害の履歴を知るためには,形成要因が明らかな堆積物の特徴を知ることが重要である.本発表では,特定の地震・洪水に対比可能な堆積物を対象に,含まれる有機炭素の安定同位体比から有機炭素に占める陸源の割合を算出した.この結果,洪水と斜面崩壊起源のタービダイトに特徴的な層位変化を認めたので紹介する.熊野川沖合の新宮海底谷沖斜面から採取されたKH-11-9-FB12およびFB14には,コア最上部に砂粒を含む赤褐色の酸化層が認められ,2011年9月の台風12号の紀伊半島への接近に伴う洪水起源と考えられている(Ikehara et al., 2012).これらのコアには中・下部にもタービダイトが認められ,137-Csと210-Pbによる堆積年代にもとづいてそれぞれ1959年伊勢湾台風と1889年十津川水害によると考えられている(Ikehara et al., 2012).これらの洪水起源堆積物に含まれる陸源有機炭素の割合は,タービダイト泥では約20-80%以上であり,同じコアの半遠洋性泥では約25-30%程度であることと比較すると高い.木片が密集するタービダイト基底部では特に高い値を示すが,明瞭な砂層を伴わないタービダイト泥では反対に下部の割合が比較的低い.また,タービダイト泥ではその割合がほぼ一定であり層位変化が認められない.日高地方沙流川沖陸棚の凹地内から2007年に採取されたコア104Aおよび95Aには,2003年8月に北海道東部を通過した台風10号に伴う洪水堆積物が認められた.洪水直後に陸棚上に広く分布していた洪水堆積物の多くは,その後波浪の影響を受けて移動したが,凹地内は保存に適した環境であった(片山ほか,2007).タービダイトの層厚は17-23cmであるが,いずれも砂質部が薄く泥質部が厚い.有機炭素に占める陸源の割合は,95Aでは約70-80%以上であり,層位変化が認められない.通常時の陸棚堆積物では約40%であることと比較すると高い.104Aでは約70-90%以上であり,タービダイト砂層とタービダイト泥の下部の方が陸源の割合が低い.タービダイト泥の中・上部の方が陸源の割合は高く,顕著な層位変化がない.海域の洪水堆積物に陸源の有機炭素が多く含まれることは,それらの供給源が陸上河川にあることから容易に予想される.タービダイト基底部に木片が密集する場合にはその層準で陸源の割合は高い.しかし,タービダイト基底-下部の方が上部よりも陸源の割合が低い特徴が紀伊半島沖深海底堆積物と日高沖陸棚堆積物に認められた.これは,混濁流が海底面に堆積していた通常時の堆積物(半遠洋性泥)を浸食し堆積したことを示すと考えられる.またタービダイト泥では,最上部に上位の半遠洋性泥との混合によると見られる低下が認められる以外には顕著な層位変化が認められないことも,両地域で共通している.これは洪水時の陸上河川から海域への陸源物質の供給が洪水のピーク時だけではなくその後も継続したことによると考えられる.一方,別府湾南西部から採取されたコアBP09-6には,1596年の慶長豊後地震により形成されたタービダイトが認められている(Kuwae et al.,2013).タービダイト砂層は薄く,タービダイト泥が厚い.イベント層準では通常時の泥層よりも数-25%程度陸源有機炭素の割合が高い.この結果から,地震の際に湾奥部に流入する大野川・大分川河口に発達するデルタ斜面が崩壊し,陸源有機炭素に富む堆積物が通常時に海底を覆っていた海洋起源の有機炭素を多く含む堆積物とともに斜面を流下しタービダイトを形成したと考えられる.タービダイト基底からタービダイト泥の上部まで連続的に陸源の寄与が減少する層位変化は,日高沖と紀伊半島沖の洪水堆積物に認められた特徴とは異なる.上方への陸源有機炭素の減少は,これらの堆積物が一度の崩壊による一過性の混濁流によって形成されたことを示すと考えられる. 以上の結果は,陸源有機炭素の割合の層位変化パターンがタービダイトを形成した混濁流の違いを反映していることを示唆する.堆積物から過去の自然災害を特定する際には,通常時の堆積物に対する陸源の寄与率の違いとともに,それらの層位変化のパターンも重要な情報となるかもしれない.文献Ikehara,K. et al., 2012, Unique 210-Pb and 137-Cs profiles in marine sediment cores containing recent event deposits off Kumano and Sanriku Japan. 2012 Annual Meeting of Geological Society of America. 片山 肇ほか,2007,北海道日高沖陸棚上における2003年洪水後の表層堆積物分布.地質調査所研究報告,58,189-190.Kuwae,M. et al., 2013, Stratigraphy and wiggle-matching-based age-depth model of late Holocene marine sediments in Beppu Bay, southwest Japan. Journal of Asian Earth Science, 69, 133-148.