日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37_30PO1] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、藤野 滋弘(筑波大学生命環境系)、清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)

18:15 〜 19:30

[HCG37-P05] 宮崎平野南部,島山地域における1662年寛文日向灘地震による沈降と堆積環境の変化

*生田 正文1佐藤 善輝1丹羽 正和1鎌滝 孝信2黒澤 英樹3高取 亮一4 (1.日本原子力研究開発機構、2.秋田大学、3.応用地質株式会社、4.株式会社地圏総合コンサルタント)

キーワード:日向灘地震, 宮崎平野, 堆積環境

宮崎平野は,これまでに日向灘や南海トラフで発生した巨大地震によって繰り返し被害を受けてきた.このうち,日向灘ではM7クラスの地震が1909年から1984年までの間に6回発生した地震活動が活発な領域であり,1968年日向灘地震(M7.5)では津波が宮崎平野にも到達した.1909年以前にも,寛文日向灘地震(1662年,M7.5~7.8)や明和日向灘地震(1769年,M7.5~8)、明治32年の日向灘地震(1899年,M7.1)などによる被害記録が残されている(宇佐美ほか,2013).他方,宝永南海地震(1707年,M8.6)や昭和南海地震(1946年,M8.0)などの南海トラフを震源とする地震でも,津波が到達している(宇佐美ほか,2013).近年,南海トラフの巨大地震モデル検討会(2012)によって最大クラスの地震・津波想定で震源断層域に新たに日向灘を含めるモデルが示されるなど注目が集まっているが,日向灘を震源とする巨大地震については,その影響範囲や規模などに関する研究事例が少なく,未解明な点が多く残されている.
日向灘で発生した最大規模の地震である1662年寛文日向灘地震では,文書記録から大きな被害や地変が起きたと推定されている(羽鳥,1985).宮崎平野南部の大淀川や加江田川の河口付近では高さ4~5 mの津波が到達し,地盤が約1 m沈降したと見積もられている.加江田川河口部に位置する島山地域では,この時発生した地盤の沈下によって入江が形成され,地震から27年後に作成された『元禄二年日向国那珂郡南方村絵図』にもその様子が描かれている.その後,入江は河川から供給される土砂によって埋積され(木花郷土誌編集委員会,1980),享保年間(1716~1735年)の干拓を経て,現在は水田となっている(宮崎市史編纂委員会,1978).このように,文書記録や絵図からは島山地域において地震に伴う急激な地形や堆積環境の変化が生じたと想定されるが,これまでに地質学的データからその実態を検証した事例はなかった.
そこで本研究では,島山地域を対象として人力打込み式採土器およびボーリングによる地質調査を行うとともに,採取したコア試料を用いて微化石や化学成分について分析を行い,沈降域周辺の堆積環境の復元を試みた.島山地域の浅層部堆積物は大きく4層に区分される(下位から順にA~D層と呼ぶ).A層は火山軽石に富む砂~シルト層で,炭質物の挟在する灰色シルト及び細~中粒砂の互層からなる.内陸側の掘削地点では,シルト層中に層厚約1~15 cmの白色火山軽石層を複数枚挟在する.B層は保存のよい巻貝や貝殻片を多く含む泥~砂層で,灰色~灰茶色シルトの互層からなる.B層は標高-1.5 m付近でA層を覆って堆積する.基底付近の層厚約15~40 cmは生物擾乱の発達する黒~濃灰色を呈する泥質な細粒砂層で,砂の偽礫や1 mm以下の貝の破片,火山岩片を含む.また,海側の地点では植物片や炭質物を多く含む傾向がある.C層は標高-0.5~0 m付近の灰色シルト~砂層で,シルト層を主体として細~中粒砂や炭化植物片が濃集する層を数枚挟在する.D層は標高0 m付近~地表までの堆積物で,表層約20 cmの人為的な耕作土層とその下位のシルト~細粒砂層からなる.
珪藻分析の結果,A層では淡水性付着性種のCymbella turgidulaGomphonema parvulumを多産し,やがて珪藻化石をほとんど産出しなくなるのに対して, B層ではCocconeis scutellumThalasionema nitzschioidesなどの汽水~海水生種が優占的に産出する.また,堆積物の吸着水分析では,B層基底を境として,K,Ca,Na,MgおよびSO42-など海水中に多く含まれる成分の濃度が急激に増加している.さらに,堆積物の粒度や貝化石の有無などにもB層基底を境として差異が認められた.以上の分析結果は,B層基底標高を境として,淡水湿地から干潟・内湾へと堆積環境が急激に変化したことを示唆する.
得られた年代測定値から見積もった堆積年代の暦年較正値は,沈降以前の淡水環境の堆積物(A層)がAD1445~1595年頃,沈降によって生じた入江を埋積した海水~汽水環境の堆積物(B層)がAD1549~1771年頃,その上位のシルト~砂からなる汽水~海水環境の堆積物(C層)がAD1651~1771年頃となる.この結果は,B層基底標高を境とする堆積環境の変化が1662年寛文日向灘地震に伴う地殻変動に対応するものであることを示す.
これらの結果をもとに,本講演では,地震の沈降による堆積環境の変遷について,これまでの研究で明らかになったことを速報として紹介する.