18:15 〜 19:30
[HDS27-P03] 観測に基づいた津波エネルギー減衰の周期依存性 - 2011年東北地方太平洋沖地震の事例 -
キーワード：津波, 減衰, 時定数, 周期
1. はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震により，東北地方沿岸地域をはじめとした広い地域で甚大な被害が発生した．このような巨大地震の際には，強震動や津波陸上氾濫の影響で交通網が寸断される可能性は十分考えられる．救援経路としての海路の安全確保に関する指標提示，すなわち津波の収束情報は円滑な救援・復旧活動とって重要といえる．地震発生から早期に海路の安全確保を行うためにも，津波の減衰過程を正確に把握することは重要である．一方で，津波収束を判断する明確で科学的な基準は未だ存在していないのも現状である (林ら，2010)．
本研究では，2011年東北地方太平洋沖地震で観測された津波波形を用いて，津波減衰過程の特徴を津波到達時間と，移動自乗平均振幅の最大値発現時間との関連から明らかにし，加えて，観測波形の持つ各周期帯成分に着目して，その減衰過程の特徴を明らかにすることを目的とする．
2. 解析方法
2011年東北地方太平洋沖地震による津波観測波形（気象庁，NOWPHAS，国土地理院）のうち，日本列島太平洋沿岸および沖合で観測されたものから20点を解析対象とした．計測間隔は30 sに統一し，さらに，潮汐成分除去のため128 minのハイパスフィルターを用いて津波成分を抽出した．
波源と観測点位置の関係で，観測点毎に津波の振幅は大きく異なる．このため，林ら(2010)が定義する移動自乗平均振幅の最大値を用いて，正規化処理を行った．この正規化波形を解析に用いた．
津波は様々な周期の波を含んでおり，周期毎にその減衰過程も異なることが示唆されている（Rabinovichら，2013）．潮汐を除いた波形に加えて，2-16 min，16-32 min，32-64 min，64-128 minのバンドパスフィルターを用いてフィルタリング処理を施した．これらの各周期帯の波形から移動自乗平均振幅を算出し，林ら(2010)の方法による解析処理を行った．減衰関数は移動自乗平均振幅の最大値以降の時間変化から求めた．本研究では，Ttは第一波の最大値が観測された時間，Tmは移動自乗平均振幅の最大値，TLはTmとTtの差と定義した．τは時定数である．τは平均的な振幅が1/eに減ずるのに要する時間という意味を持つ．
3. 解析結果
(1) 各観測点におけるτの特性
潮汐を除いた周期帯における各観測点のτとTtの関係を整理した結果，沿岸･沖合に関わらず，τとTtは正の相関にあることがわかる．また，沖合と沿岸の観測点を比較すると，沿岸の方が沖合よりτが長くなる傾向にある．これらはTtが長くなるにつれて，大規模な海底構造の影響が大きくなり，伝播経路が複雑になる事や，沿岸観測点近傍のローカルな湾構造に起因した副振動の影響によるものと考えられる．
(2) 各周期帯におけるτの特性
各周期帯におけるTLとτの関係を整理した結果，沿岸観測点における64-128 minの波形成分では，TLは短いがτが長くなる傾向が見られた．一方で32 min以下の波形成分では，TLが有意に長くなる観測点がみられた．加えて，TLが長い観測点間でもτに差が見られた．これらは，一部周期帯の波が観測点近傍で補足されたことや，二次波源からの散乱波などの影響によるものと考えられる．
4. 結論
本研究では，2011年東北地方太平洋沖地震時の津波波形を用い解析を行い，津波エネルギーの減衰過程を特徴付ける要因として，以下の結果が得られた．
① 沿岸･沖合に関わらず，τとTtは正の相関にあり，沿岸観測点の方がτより長くなる傾向にある．
② 大局的な傾向としては，短周期成分よりも長周期成分の方がτは長くなる．
③ 32 min以下の波形成分についてはTLが長くなる観測点がみられた．
謝辞
本研究の一部は，JSPS科研費24310132の助成を受けたものである．また，津波観測波形は気象庁，国土交通省，国土地理院から提供頂きました．ここに記して謝意を表します．
2011年東北地方太平洋沖地震により，東北地方沿岸地域をはじめとした広い地域で甚大な被害が発生した．このような巨大地震の際には，強震動や津波陸上氾濫の影響で交通網が寸断される可能性は十分考えられる．救援経路としての海路の安全確保に関する指標提示，すなわち津波の収束情報は円滑な救援・復旧活動とって重要といえる．地震発生から早期に海路の安全確保を行うためにも，津波の減衰過程を正確に把握することは重要である．一方で，津波収束を判断する明確で科学的な基準は未だ存在していないのも現状である (林ら，2010)．
本研究では，2011年東北地方太平洋沖地震で観測された津波波形を用いて，津波減衰過程の特徴を津波到達時間と，移動自乗平均振幅の最大値発現時間との関連から明らかにし，加えて，観測波形の持つ各周期帯成分に着目して，その減衰過程の特徴を明らかにすることを目的とする．
2. 解析方法
2011年東北地方太平洋沖地震による津波観測波形（気象庁，NOWPHAS，国土地理院）のうち，日本列島太平洋沿岸および沖合で観測されたものから20点を解析対象とした．計測間隔は30 sに統一し，さらに，潮汐成分除去のため128 minのハイパスフィルターを用いて津波成分を抽出した．
波源と観測点位置の関係で，観測点毎に津波の振幅は大きく異なる．このため，林ら(2010)が定義する移動自乗平均振幅の最大値を用いて，正規化処理を行った．この正規化波形を解析に用いた．
津波は様々な周期の波を含んでおり，周期毎にその減衰過程も異なることが示唆されている（Rabinovichら，2013）．潮汐を除いた波形に加えて，2-16 min，16-32 min，32-64 min，64-128 minのバンドパスフィルターを用いてフィルタリング処理を施した．これらの各周期帯の波形から移動自乗平均振幅を算出し，林ら(2010)の方法による解析処理を行った．減衰関数は移動自乗平均振幅の最大値以降の時間変化から求めた．本研究では，Ttは第一波の最大値が観測された時間，Tmは移動自乗平均振幅の最大値，TLはTmとTtの差と定義した．τは時定数である．τは平均的な振幅が1/eに減ずるのに要する時間という意味を持つ．
3. 解析結果
(1) 各観測点におけるτの特性
潮汐を除いた周期帯における各観測点のτとTtの関係を整理した結果，沿岸･沖合に関わらず，τとTtは正の相関にあることがわかる．また，沖合と沿岸の観測点を比較すると，沿岸の方が沖合よりτが長くなる傾向にある．これらはTtが長くなるにつれて，大規模な海底構造の影響が大きくなり，伝播経路が複雑になる事や，沿岸観測点近傍のローカルな湾構造に起因した副振動の影響によるものと考えられる．
(2) 各周期帯におけるτの特性
各周期帯におけるTLとτの関係を整理した結果，沿岸観測点における64-128 minの波形成分では，TLは短いがτが長くなる傾向が見られた．一方で32 min以下の波形成分では，TLが有意に長くなる観測点がみられた．加えて，TLが長い観測点間でもτに差が見られた．これらは，一部周期帯の波が観測点近傍で補足されたことや，二次波源からの散乱波などの影響によるものと考えられる．
4. 結論
本研究では，2011年東北地方太平洋沖地震時の津波波形を用い解析を行い，津波エネルギーの減衰過程を特徴付ける要因として，以下の結果が得られた．
① 沿岸･沖合に関わらず，τとTtは正の相関にあり，沿岸観測点の方がτより長くなる傾向にある．
② 大局的な傾向としては，短周期成分よりも長周期成分の方がτは長くなる．
③ 32 min以下の波形成分についてはTLが長くなる観測点がみられた．
謝辞
本研究の一部は，JSPS科研費24310132の助成を受けたものである．また，津波観測波形は気象庁，国土交通省，国土地理院から提供頂きました．ここに記して謝意を表します．