日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS28_1PO1] アジア太平洋地域の地震・津波・火山噴火ハザードとリスク

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*宝田 晋治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、小泉 尚嗣(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、桑原 保人(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、石川 有三(独立行政法人 産業技術研究所 活断層・地震研究センター)、高田 亮(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)、古川 竜太(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、重松 紀生(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、丸山 正(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)

18:15 〜 19:30

[HDS28-P01] 2011年東北地方太平洋沖地震に伴う津波被害と低地における微地形の関係

*五十里 和也1奈良間 千之2 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.新潟大学理学部)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震, 津波, 仙台平野, 低地, 微地形, 空中写真

2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(M9.0)に伴って東日本に大津波が押し寄せ,特に岩手・宮城・福島の3県で甚大な被害を出した.特に海沿いの低地では,津波から逃れるためには内陸に向かわざるを得ず,避難の途中で飲み込まれるケースが問題となった.その点では三陸地方のリアス式海岸は地形的な高台に恵まれているが,仙台平野のような低地は津波に対して極めて脆弱である.本研究では,低地の防災計画に役立つデータを提供するために,仙台平野の津波被害と低地の微地形が遡上に与える影響を分析し,その危険度を決める地形的要因についての評価をおこなった.
仙台平野には浜堤は3列あり,その発達には地域差がみられる.仙台地区では内陸側の浜堤は小さく,分布も不連続である.名取・岩沼地区における現成の浜堤の規模は6mを超え,内陸側にも複数の浜堤が発達する.亘理・山元地区では現成の浜堤の規模は小さいが,内陸側には幅500mわたって比高1-2mの複数の浜堤が形成されている.なお海岸から2-3km内陸側には,盛土を中心とした比高約5mの高速道路がある.
GIS Team of Niigata Univ.(2012)による家屋被害マップのポリゴンデータと,国土地理院提供の空中写真(2011/3/12)・GoogleEarthの衛星画像(2011/4/6,2012/4/12)を用いて,浸水域内の家屋を3つのダメージカテゴリに分類した(①津波に跡形もなく流された家屋,②津波後1年以内に解体された家屋,③津波1年後も残存している家屋).このうち,②は流出を免れたものの壊滅的なダメージを受けたため処分され,③は修復の可能性が残っていると判断した.また,電柱・防潮林・流木・侵食痕の方向をマニュアルでデジタイズし,津波の侵入過程を再現した.特に,電柱と海岸林が倒れた方向は第1波の侵入方向を示し,流木と浸食痕の方向は第2波以降や引き波で流された方向も示すと判断した.
仙台平野の家屋被害について,11,601棟の流出,4,845棟の解体,13,845棟の残存を確認した.海岸から1km圏内では家屋の8割以上が流出したことから,現成の浜堤や防潮林はこの大津波に対する減衰効果をほとんど持たなかったとみられる.一方,海岸から1kmより内陸側の微高地に立地する居住地の被害には地域差がみられた.特に浜堤がほとんどみられない仙台地区では,流木や瓦礫などの漂流物が海岸から1-3km地点まで流されており,家屋被害も内陸側までおよんでいた.ところが浜堤の規模が大きい名取・岩沼地区や,複数の浜堤がみられる亘理・山元地区では内陸側の家屋被害は比較的小さく,漂流物のほとんどが堤間低地に留まっていた.また津波の侵入方向をみると,海岸から1kmまでは直進してきた津波が,内陸側では堤間低地の傾斜を下り降りる方向や,微地形の谷を駆け上がる方向に流れた痕跡がみられ,内陸側の後背湿地になだれ込んで進路が変わっていた地区もあった.また蛇行河川である阿武隈川では,攻撃斜面側の低地に逆流遡上する方向と,海岸の浜堤を乗り越える2方向から津波が侵入しており,滑走斜面側の居住地は浸水を免れていた.これらの結果から,浜堤の存在が漂流物の侵入を防ぎ,堤間低地や微地形の谷が津波の進路となり,わずかな凹地形が津波に対する遊水地の役割を果たしたことが,仙台平野における家屋被害の地域差を生み出したと考えられる.すなわち海岸から1kmより内陸側では,比高わずか1-2mの微高地が家屋被害を軽減させたのである.