日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS29_28AM2] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 415 (4F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

11:15 〜 11:30

[HDS29-02] 北海道層雲峡の熔結凝灰岩谷壁で発生した2013年9月の岩盤崩壊

*石丸 聡1田近 淳1渡邊 達也1石川 勲2志村 一夫3 (1.北海道立総合研究機構 地質研究所、2.北海道庁、3.シン技術コンサル)

キーワード:岩盤崩壊, 熔結凝灰岩, 岩盤すべり, 岩屑なだれ

2013年9月8日の午後4時半頃,北海道上川町層雲峡の“四の岩”付近の石狩川左岸谷壁で岩盤崩壊が発生した.当地区では国道39号が石狩川沿いを通るが,崩壊斜面からは石狩川を挟み対岸に位置しており,また距離も崩壊斜面下から約170m離れているため,幸いにも土砂は国道までは到達しなかった.しかしながら,崩壊土砂は石狩川の河道を一部埋積したために排水不良となり,その上流側約200mの範囲に湛水域が生じた.この岩盤崩壊は以下に述べるとおり,岩盤すべりを発端とし,斜面下では岩屑なだれのような挙動を示す高速流動の痕跡が認められる.崩壊箇所の谷壁の地質は下位の古第三紀付加体日高層群の頁岩,上位の層雲峡熔結凝灰岩からなる.ここでは,層雲峡熔結凝灰岩は上下2つの岩相に分かれ,下部は強度の低い非熔結部,上部は柱状節理・板状節理の発達した熔結部からなる.層雲峡は,約3万年前に大雪山御鉢平カルデラ形成に伴い噴出した火砕流堆積物(層雲峡熔結凝灰岩)を石狩川が下刻してできた峡谷で,急崖斜面が発達する.崩壊発生箇所では,凝灰岩熔結部が比較的薄いため,斜面最上部の約30mのみが急崖となり,その下方の比高約150mは40度前後の斜面が発達する.空中写真判読によれば,40度前後の斜面には縦断方向に緩慢な凹凸の微地形が連続し,過去の崩壊による崖錐堆積物が斜面を覆っているように見える.この斜面下には石狩川に沿って,幅 約300mの谷底平坦面が広がる.斜面崩壊の浸食域と堆積域をあわせた範囲は,標高695m~505mの比高 (H)190m,幅90~100m,奥行き(L) 365mで,等価摩擦係数(H/L)は0.52となる.推定崩壊土砂量は,堆積域の地形形状から約33,000m3以上と見積もられた.崩壊範囲のうち斜面部の奥行きは220mで,斜面上部90mは層雲峡熔結凝灰岩が露出し,それより下方95mは崩壊土砂が斜面を覆う.土砂斜面の下部中央には,崩壊の最終段階に生じた比高45m,幅20mの土砂の円弧すべりの痕跡が見られる.この円弧すべりにより,崩壊土砂に覆われた過去の崖錐堆積物が一部露出する.周辺斜面の踏査によれば,崖錐堆積物の下には日高層群の頁岩が被覆されているものとみられる.なお,崩壊2日後の調査時には,崖錐堆積物に複数のパイピングホールが生じ,そこから湧水が流出してガリーが形成され,斜面に露出した崖錐堆積物は含水状態となっていた.斜面下に崩れ落ちた土砂は谷底平坦面にローブ状に広がり,その中軸部では流動を示す複数列の弧状のリッジ&トラフ(比高1~2m)が半同心円状に並ぶ.平地に広がる崩壊土砂の範囲は奥行き130m,幅120mで,最大岩塊の径は7mに達する.岩塊の大多数は灰白色の凝灰岩非熔結部で,薄く赤味を帯びた斜面上部の凝灰岩熔結部の岩塊は主に中軸部のリッジ付近に散在する.日高層群の頁岩の岩塊は,ほとんど見ることができない.リッジの前面やトラフの隙間からは木片や有機物を含む表土起源と思われる堆積物と火山灰の混合物の搾り出しが見られる.これは,崩壊物質が流走した際に,移動体下底の土層(斜面下部~谷底平坦面の表土)が巻き込まれたものとみられ,岩屑なだれの流動層(基質相)のような役割を果たしたものとみられる.崩壊後にも見られた崖錐堆積物の含水状態は,崩壊以前の土層および崖錐堆積物でも同様であったものとみられ,これが流動層となった可能性がある.土砂が石狩川を越流した対岸では,樹木が崩壊源の方向に倒れていることから,堆積域先端部では移動体が樹木の足元を払うように高速で広がったものとみられる.等価摩擦係数に基づく推定式(Sceidegger1973)によれば,谷底平坦面に達した時点での移動体の速度は38m/sに達する.斜面形状や地質構成から判断すると,崩壊は日高層群の頁岩と凝灰岩非熔結部の境界付近ですべりが発生し,その上方の岩体とともに滑落した“岩盤すべり”とみられる.日高層群の頁岩は水を通しにくく,その上にのる凝灰岩非熔結部は水を通しやすいため,地下水は凝灰岩非熔結部の基底部に集まる.斜面下部の崖錐堆積物に見られる湧水も凝灰岩非熔結部から流出する地下水由来のものとみられる.層雲峡熔結凝灰岩の火砕流は約3万年前当時の谷壁斜面を構成する日高層群の頁岩の上を埋積したため,日高層群の頁岩と層雲峡熔結凝灰岩の境界(3万年前の谷壁斜面にあたる)は川に向かって傾斜しており,その上にのる凝灰岩の構造も谷側に傾斜する.傾斜した地層境界部の上位に強度が低く地下水の集中しやすい非熔結部が,さらにその上に重い柱状節理・板状節理の熔結部がのるという不安定な斜面で崩壊が発生した.なお,斜面最上部の柱状節理の発達する範囲では,露出した崩壊面に薄く苔が生えていることから,この部分は崩壊以前からすでに開口していたものとみられる.