18:15 〜 19:30
[HDS29-P06] 御坂山地西部・四尾連湖の形成史と地すべり
キーワード:地すべり, 湖成層, 姶良丹沢テフラ, 14C年代測定, 更新世後期
山梨県御坂山地西部の四尾連湖(湖面標高890 m,周囲1.2 km,最大水深9.5 m)は,その成因や形成年代をめぐって 諸説があったものの,詳細な調査・議論はなされていなかった.本研究では地形・地質調査に基づき,四尾連湖の成因 と形成年代を検討した.
四尾連湖とその周辺を対象に空中写真判読を行った結果,湖の北側の大畠山(標高1117 m)山頂直下に横断長約1.0 km・縦断長約0.3 kmの円弧状急崖(Cm)が確認された.またCmの下方には東西方向に長軸をもつ横断長約 1.0 km・縦断長約1.5 kmの丘状地形(Bm)が見いだされた.BmはCm側へ逆傾斜する.さらに,Cmの内側にはCmを彫りこむように発達した横断長約0.1 kmの2つの急崖(Cse,Csw)と,それらに対応する長径0.1 km前後の小規模なマウンド(Bse,Bsw)が認識された.複数地点での露頭観察によって,Bmが厚い角礫層からなり,礫にジグソー・クラック構造が発達することも確認された.以上より,滑落崖 Cm を発生域とする地すべり移動体 Bm が Cm 側へ逆傾斜し,それによって生じた閉塞凹地が湛水して四尾連湖が成立したと考えられる.
一方,四尾連湖の東岸から南東に約0.4 km離れた小谷の谷壁において,厚さ9 m以上の湖成層が新たに発見された.この露頭での湖成層下限標高は約857 mである.この湖成層はラミナを伴うシルト層や砂礫層,泥炭層からなり,一部層準に多量の木片を含む.また同層上部には泡壁型火山ガラスからなる厚さ約6 cmのテフラ層が介在する.火山ガラスの 屈折率はn=1.4970-1.5005であった.また火山ガラスの主成分化学組成[いずれも規格化後wt%;規格化前トータル= 94.13]は,SiO2=77.97±0.23と高く,アルカリ元素にやや富み(Na2O=3.53±0.13,K2O=3.45±0.11),苦鉄質成分は少なかった(FeO=1.26±0.07,MgO=0.10±0.04).これらより本テフラは姶良丹沢(AT,30 cal ka)に同定される.なお,湖成層基底から得た木片は46.7-45.0 cal kaであった(湖成層上限には年代資料が介在しない).
この湖成層は,47-45 cal kaごろ現在の四尾連湖の東に水域が現れ,AT降下期を挟んで15 ky以上存続したことを示す.これに関連して次の古地理像が想定される.すなわち,1)かつての四尾連湖は1つの湖盆からなり水域は現在より広かったが,何らかの理由で東西2つ(以上)の湖盆に分割され,東側のものは消滅した.2)かつてこの付近には当初から2つ(以上)の水域が独立して存在していたが,現在の四尾連湖を除き消滅した.このうち1)については,次のように考えられる.すなわち,滑落崖Cmを切る二次地すべりが発生して滑落崖Cse・Cswが生じ,対応する移動体Bse・Bswが下方に定置した.この結果,移動体Bm上の閉塞凹地に存在した古四尾連湖は,Bse・Bswにより東西に分断された.その後,西側の水域は現四尾連湖に継承され,東側の水域は谷頭侵食や決壊により消滅した.
古地理像1)・2)の検証や,湖水面高度の変動復元などのためには,範囲を広げた調査が必要である.
(本研究には科研費24300321を使用した)
四尾連湖とその周辺を対象に空中写真判読を行った結果,湖の北側の大畠山(標高1117 m)山頂直下に横断長約1.0 km・縦断長約0.3 kmの円弧状急崖(Cm)が確認された.またCmの下方には東西方向に長軸をもつ横断長約 1.0 km・縦断長約1.5 kmの丘状地形(Bm)が見いだされた.BmはCm側へ逆傾斜する.さらに,Cmの内側にはCmを彫りこむように発達した横断長約0.1 kmの2つの急崖(Cse,Csw)と,それらに対応する長径0.1 km前後の小規模なマウンド(Bse,Bsw)が認識された.複数地点での露頭観察によって,Bmが厚い角礫層からなり,礫にジグソー・クラック構造が発達することも確認された.以上より,滑落崖 Cm を発生域とする地すべり移動体 Bm が Cm 側へ逆傾斜し,それによって生じた閉塞凹地が湛水して四尾連湖が成立したと考えられる.
一方,四尾連湖の東岸から南東に約0.4 km離れた小谷の谷壁において,厚さ9 m以上の湖成層が新たに発見された.この露頭での湖成層下限標高は約857 mである.この湖成層はラミナを伴うシルト層や砂礫層,泥炭層からなり,一部層準に多量の木片を含む.また同層上部には泡壁型火山ガラスからなる厚さ約6 cmのテフラ層が介在する.火山ガラスの 屈折率はn=1.4970-1.5005であった.また火山ガラスの主成分化学組成[いずれも規格化後wt%;規格化前トータル= 94.13]は,SiO2=77.97±0.23と高く,アルカリ元素にやや富み(Na2O=3.53±0.13,K2O=3.45±0.11),苦鉄質成分は少なかった(FeO=1.26±0.07,MgO=0.10±0.04).これらより本テフラは姶良丹沢(AT,30 cal ka)に同定される.なお,湖成層基底から得た木片は46.7-45.0 cal kaであった(湖成層上限には年代資料が介在しない).
この湖成層は,47-45 cal kaごろ現在の四尾連湖の東に水域が現れ,AT降下期を挟んで15 ky以上存続したことを示す.これに関連して次の古地理像が想定される.すなわち,1)かつての四尾連湖は1つの湖盆からなり水域は現在より広かったが,何らかの理由で東西2つ(以上)の湖盆に分割され,東側のものは消滅した.2)かつてこの付近には当初から2つ(以上)の水域が独立して存在していたが,現在の四尾連湖を除き消滅した.このうち1)については,次のように考えられる.すなわち,滑落崖Cmを切る二次地すべりが発生して滑落崖Cse・Cswが生じ,対応する移動体Bse・Bswが下方に定置した.この結果,移動体Bm上の閉塞凹地に存在した古四尾連湖は,Bse・Bswにより東西に分断された.その後,西側の水域は現四尾連湖に継承され,東側の水域は谷頭侵食や決壊により消滅した.
古地理像1)・2)の検証や,湖水面高度の変動復元などのためには,範囲を広げた調査が必要である.
(本研究には科研費24300321を使用した)