10:00 〜 10:15
[HDS29-P07_PG] 伊豆大島の噴火史からみた 2013 年 10 月 16 日の台風26号にともなうラハール災害
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:伊豆大島, 火山, 噴火史, ラハール, 2013年台風26号, 斜面崩壊
1.はじめに
伊豆大島火山では、カルデラ外にテフラを地層として残す中-大規模噴火が、過去1500年間に24回起きた(小山・早川,1996,地学雑誌)。テフラ間には10-200年程度の噴火休止期間を示す風成堆積物(レス)が挟まれる。これらのテフラやレスとの層位関係を調べることによって、噴火以外の事件の年代や広がりも知ることができる。この手法を用いて、筆者らは2013年10月16日の台風26号の豪雨によってカルデラ西側で生じた斜面崩壊を調査し、さらには過去の類似事件の有無や頻度についても検討したので報告する。
2.崩壊域の地質概要
斜面崩壊域とその周辺に分布する堆積物は、上位より(1)地表直下のレス、(2)Y0.8火山灰(19世紀前半)、(3)Y0.8/Y1.0レス、(4)Y1.0火山灰(1777-79年安永噴火)、(5)Y1.0/Y2.0レス、(6)Y2.0火山灰(1684年貞享噴火)、(7)Y2.0/Y3.0レス、(8)Y3.0火山灰(16世紀後半)、(9)Y3.0/Y4.0レス、(10)Y4.0火山灰(15世紀なかば)、(11)Y4.0/Y5.0レス、(12)Y5.0火山灰(14世紀前半)、(13)Y5.0/Y5.2レス、(14)Y5.2スコリア(14世紀初頭)とそれにともなう溶岩流(元町溶岩)、である。なお、崩壊域北端の長沢沿いにのみ、1986年噴火の際に流下したLCI溶岩流が分布する。
火山灰は主として灰色を呈し、砂サイズの粒子を多く含む。レスは褐色でシルト以下の粒子を多く含み、粘着質で水を通しにくい。20cm以上の厚さをもつY1.0、Y2.0、Y4.0、Y5.2はほぼどこにでも分布し、それに満たないY0.8、Y3.0、Y5.0は保存の良い場所でのみで見られる。Y5.2スコリアはカルデラ西側斜面で生じた割れ目噴火の産物であり、火口周辺では北西-南東方向に伸びたスコリア丘を形づくる。元町溶岩は、このスコリア丘から流出し、元町周辺に流れ広がって海岸に達した。なお、浸食が進んだ谷ぞいには、Y5.2スコリアと元町溶岩の下位に、さらに古い時代の火山灰、溶岩流、岩屑なだれ堆積物が露出する場所もある。
3.斜面崩壊の層位とメカニズム
多くの崩壊面にはY1.0/Y2.0またはY4.0/Y5.0のレス上面が広く露出しており、それらの層位より上にある厚さ1-1.5mの火山灰/レス互層が薄くはがれるように落ちたことがわかる。おそらく透水性がよく大量の雨水を含んだ火山灰が、透水性の悪いレスの上面を境にして滑り落ちたのであろう。浸食の深い場所では、崩壊面にY5.2スコリアまたは元町溶岩上部のクリンカーが露出する部分もあるが、一般にスコリアやクリンカーの透水性は火山灰より良いため、そこが滑り面になったとは考えにくい。
4.元町付近を襲った歴史時代のラハール
過去の類似災害の有無や様相を調査するため、谷沿いと海岸においてテフラ/レス互層中に挟まれるラハール堆積物を調べた。ラハール堆積物は、水流がつくった斜交葉理などの堆積構造をもつこと、シルト以下の粒子や礫・偽礫を多量に含むこと、下位層を削りこんでレンズ状に分布するなどの特徴によって容易に判別できる。
2013年斜面崩壊の最大被災地となった神達地区には、Y0.8火山灰と地表の間に火山岩礫を含む厚さ1-2mの泥質ラハールAが分布する。ラハールAは、被害記録の残る1856年または1932年の暴風雨(立木、1961、『伊豆大島志考』)に対比できるかもしれない。なお、1958年狩野川台風も元町周辺に「山津波」と呼ばれる土砂災害を起こしたが、土砂の氾濫域は主として大金沢・長沢の下流であり、神達地区は含まれていない(気象庁,1958,気象庁技術報告)。
神達地区の北に隣接する大金沢では、Y2.0とY4.0の間の層位に泥質偽礫を多数含む厚さ数十cmのラハールBが挟まれる。ラハールBは、その層位から考えて、下流の湯の浜海岸にあった下高洞集落を16世紀末に埋没させ、現在の元町台地への集落移転のきっかけを作った「びゃく」の伝承(立木、1961前出;井上、2014、月刊地理)に対比できるかもしれない。
大金沢と湯の浜海岸には、元町溶岩の直上に、Y5.2スコリア丘起源とみられる赤色スコリアを多数含む厚さ1-2mのラハールCが分布する。
以上のことから、元町周辺で起きた流下物による地質災害を古い順にたどると、(1)14世紀初頭の元町溶岩、(2)その直後に起きたラハールC、(3)16世紀末の「びゃく」に相当するかもしれないラハールB、(4)1856年または1932年?に神達地区を襲ったラハールA、(5)1958年狩野川台風にともなうラハール、(6)1986年噴火のLCI溶岩流、(7)2013年10月16日のラハール、の計7回となる。
伊豆大島火山では、カルデラ外にテフラを地層として残す中-大規模噴火が、過去1500年間に24回起きた(小山・早川,1996,地学雑誌)。テフラ間には10-200年程度の噴火休止期間を示す風成堆積物(レス)が挟まれる。これらのテフラやレスとの層位関係を調べることによって、噴火以外の事件の年代や広がりも知ることができる。この手法を用いて、筆者らは2013年10月16日の台風26号の豪雨によってカルデラ西側で生じた斜面崩壊を調査し、さらには過去の類似事件の有無や頻度についても検討したので報告する。
2.崩壊域の地質概要
斜面崩壊域とその周辺に分布する堆積物は、上位より(1)地表直下のレス、(2)Y0.8火山灰(19世紀前半)、(3)Y0.8/Y1.0レス、(4)Y1.0火山灰(1777-79年安永噴火)、(5)Y1.0/Y2.0レス、(6)Y2.0火山灰(1684年貞享噴火)、(7)Y2.0/Y3.0レス、(8)Y3.0火山灰(16世紀後半)、(9)Y3.0/Y4.0レス、(10)Y4.0火山灰(15世紀なかば)、(11)Y4.0/Y5.0レス、(12)Y5.0火山灰(14世紀前半)、(13)Y5.0/Y5.2レス、(14)Y5.2スコリア(14世紀初頭)とそれにともなう溶岩流(元町溶岩)、である。なお、崩壊域北端の長沢沿いにのみ、1986年噴火の際に流下したLCI溶岩流が分布する。
火山灰は主として灰色を呈し、砂サイズの粒子を多く含む。レスは褐色でシルト以下の粒子を多く含み、粘着質で水を通しにくい。20cm以上の厚さをもつY1.0、Y2.0、Y4.0、Y5.2はほぼどこにでも分布し、それに満たないY0.8、Y3.0、Y5.0は保存の良い場所でのみで見られる。Y5.2スコリアはカルデラ西側斜面で生じた割れ目噴火の産物であり、火口周辺では北西-南東方向に伸びたスコリア丘を形づくる。元町溶岩は、このスコリア丘から流出し、元町周辺に流れ広がって海岸に達した。なお、浸食が進んだ谷ぞいには、Y5.2スコリアと元町溶岩の下位に、さらに古い時代の火山灰、溶岩流、岩屑なだれ堆積物が露出する場所もある。
3.斜面崩壊の層位とメカニズム
多くの崩壊面にはY1.0/Y2.0またはY4.0/Y5.0のレス上面が広く露出しており、それらの層位より上にある厚さ1-1.5mの火山灰/レス互層が薄くはがれるように落ちたことがわかる。おそらく透水性がよく大量の雨水を含んだ火山灰が、透水性の悪いレスの上面を境にして滑り落ちたのであろう。浸食の深い場所では、崩壊面にY5.2スコリアまたは元町溶岩上部のクリンカーが露出する部分もあるが、一般にスコリアやクリンカーの透水性は火山灰より良いため、そこが滑り面になったとは考えにくい。
4.元町付近を襲った歴史時代のラハール
過去の類似災害の有無や様相を調査するため、谷沿いと海岸においてテフラ/レス互層中に挟まれるラハール堆積物を調べた。ラハール堆積物は、水流がつくった斜交葉理などの堆積構造をもつこと、シルト以下の粒子や礫・偽礫を多量に含むこと、下位層を削りこんでレンズ状に分布するなどの特徴によって容易に判別できる。
2013年斜面崩壊の最大被災地となった神達地区には、Y0.8火山灰と地表の間に火山岩礫を含む厚さ1-2mの泥質ラハールAが分布する。ラハールAは、被害記録の残る1856年または1932年の暴風雨(立木、1961、『伊豆大島志考』)に対比できるかもしれない。なお、1958年狩野川台風も元町周辺に「山津波」と呼ばれる土砂災害を起こしたが、土砂の氾濫域は主として大金沢・長沢の下流であり、神達地区は含まれていない(気象庁,1958,気象庁技術報告)。
神達地区の北に隣接する大金沢では、Y2.0とY4.0の間の層位に泥質偽礫を多数含む厚さ数十cmのラハールBが挟まれる。ラハールBは、その層位から考えて、下流の湯の浜海岸にあった下高洞集落を16世紀末に埋没させ、現在の元町台地への集落移転のきっかけを作った「びゃく」の伝承(立木、1961前出;井上、2014、月刊地理)に対比できるかもしれない。
大金沢と湯の浜海岸には、元町溶岩の直上に、Y5.2スコリア丘起源とみられる赤色スコリアを多数含む厚さ1-2mのラハールCが分布する。
以上のことから、元町周辺で起きた流下物による地質災害を古い順にたどると、(1)14世紀初頭の元町溶岩、(2)その直後に起きたラハールC、(3)16世紀末の「びゃく」に相当するかもしれないラハールB、(4)1856年または1932年?に神達地区を襲ったラハールA、(5)1958年狩野川台風にともなうラハール、(6)1986年噴火のLCI溶岩流、(7)2013年10月16日のラハール、の計7回となる。