日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS29_28PO1] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2014年4月28日(月) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)

18:15 〜 19:30

[HDS29-P08] 2013年10月に伊豆大島西側斜面で発生した表層崩壊と地形・地質の関係

*鈴木 毅彦1首都大学東京 2013年台風26号伊豆大島災害調査グループ 1 (1.首都大学東京)

キーワード:伊豆大島, 台風第26号(Wipha), 表層崩壊, 降下テフラ累層, 溶岩流

2013年10月16日未明に発生した斜面崩壊はその分布から地形・地質との対応,とくに14世紀(西暦1338年?)に流下した溶岩流の分布域と崩壊域がよく一致することが指摘されている(国土交通省ホームページなど).すなわち崩壊の発生と地形・地質の間に因果関係が成り立つことを示唆する.理由として,比較的新しい時代の溶岩流の存在により,周辺域に比べて地表直下の透水層となる降下火山灰層が数m以下と薄く,表層部が多量の降水により飽和状態になりやすかったと考えられる.このような表層崩壊の発生と素因としての地形・地質の関係を確認するため,12月7?8日,1月4?6日に崩壊が集中した先カルデラ火山新期山体(地質調査所 1998)西側斜面を御神火スカイライン沿いに,順次上から崩壊と周辺の地形・地質の調査観察を実施した.
1)崩壊開始地点は多くが御神火スカイライン道路下側に接した斜面であるが,数カ所ではスカイラインの道路上側からも崩壊が発生している.標高440?450 m付近では道路山側法面の上方から表層崩壊が発生している.遠方からの崩壊地上端の断面観察によれば,崩壊部分は樹木の根が発達する表層土壌のみであり,崩壊が元の斜面を薄く削ぐように発生していることが分かる.
2)つづら折りになるスカイラインに挟まれた標高450?330 m斜面では,標高440?450 m付近同様に,崩壊が元の斜面を薄く削ぐように発生している.このため,深部の地質は分かりにくい.
3)標高330 m付近の道路沿いでは斜面構成物を確かめることができ,表層は1 m以上の火山灰層と土壌層の互層,その下位は高温酸化したスパター集積層が存在する.スパターは部分的に堆積後の溶融によりアグルチネート化しており,直ぐ近傍に火口があったことを示唆する.その火口は14世紀溶岩流の可能性があり,その場合上を覆う火山灰層・土壌層互層は最近700年間に形成されたもので,今回の崩壊の主体をなすものと考えられる.330 m付近はスカイラインが分断を受けた唯一の地点である.分断地点は谷筋に相当し,火山灰層だけでなくスパター集積層を含めて削り込まれ,下位の溶岩流上面が露出している.
4)標高330 m付近の分断地点から谷沿いに下った付近でも火山灰層・スパター集積層が削り込まれた谷が認められ,細長く溶岩流が露出した侵食谷が伸びる.このよう侵食谷は標高250 m付近では複数認められ,崩壊土砂通過域における地形的な特徴を示す.なお侵食谷間の微高地では,火山灰層・土壌層互層が残存しており,単純に溶岩流上位の未固結層が面的に全て削剥されたのではない.
5)今回,崩壊地域に周囲を囲まれながら崩壊から免れた地域が東西方向に複数認められ,尾根部に非崩壊域が存在するようにみえる.現地で確かめたところ標高320 m付近は14世紀とみられる溶岩流が分布しないか,分布してもその側方縁辺部である.とくに溶岩流が分布しない断面では,道路法面に少なくとも3枚の厚い降下スコリア層(西暦838年以前に噴出年代をもつ可能性がある)が露出しており,崩壊箇所と明らかに地質が異なる.崩壊発生域が溶岩流分布域であり,上位の降下火山灰層が数m以内の薄い地域で崩壊が選択的に発生した,という考えを裏づける事例になると思われる.
 まとめ 今回の調査で「崩壊域が溶岩流分布域であり,上位の降下火山灰層が数m以内の薄い地域で選択的に発生した」という考えを概ね支持する成果が得られた.一方で予想以上に表層浅い部分のみが崩壊しており,溶岩流上の火山灰層・土壌層互層が残されている場所が崩壊土砂通過域において面的に広がる.今後は上記の噴出物の累重関係や分布を把握し,それが崩壊とどの様な関係であったことをより精密に把握する必要がある.その結果が将来の類似した斜面崩壊の予測・予防に繋がると考えられる.
本調査は,首都大学東京伊豆大島災害調査グループの活動として実施したものである.
引用文献: 地質調査所 1998.伊豆大島火山地質図.国土交通省ホームページ 2014年1月15日閲覧.http://www.mlit.go.jp/ river/sabo/h25_typhoon26/izuooshimagaiyou131112.pdf