日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS29_28AM1] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2014年4月28日(月) 10:00 〜 10:45 415 (4F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:西井 稜子(筑波大学)、山崎 新太郎(北見工業大学工学部社会環境工学科)

10:00 〜 10:15

[HDS29-P11_PG] 雪上滑走型地すべりにおける長距離運動の発生条件―実現象の観察と実験からの洞察

ポスター講演3分口頭発表枠

*山崎 新太郎1川口 貴之1中村 大1山下 聡1白川 龍生1ハス バートル2 (1.北見工業大学、2.アジア航測株式会社)

キーワード:地すべり, 雪, 地震, 雪崩, 岩屑なだれ

2011年3月12日新潟県津南町を震源とするM6.6の長野県北部地震では,斜面が崩壊して発生した岩石が雪上を流下して非常に長距離流動した.筆者らはこれを雪上滑走型地すべりと名付け,詳しい検討を行っている.この現象は従来から知られているスラッシュ雪崩や地すべり,または通常の雪崩とは異なるものであり,豪雪地域における地震防災の観点から重要な現象である.筆者らは,先の長野県北部地震時の調査から,雪と上方の地すべり物質の境界層を観察し,そこが一時的に液化した痕跡を発見した.このような,雪と岩石混合物の底層における液化は,世界各地の雪上または氷河上の岩屑なだれが発生した際にも指摘されているが,詳しく報告できたのは筆者らの研究が初めてであった.しかしながら,雪上地すべりや落石は必ずしも長距離流動するとは限らない.実際に観察される雪上を流下した落石または地すべり現象のほとんどの場合において,移動体は急斜面の途中で停止してしまう.この事実は,長距離現象が限られた条件で発生することを示している.本研究では,まず,再現が可能な小規模な現象においてどのような流下から停止にいたるプロセスがあるのか,まず小規模な土槽(斜面20度)を用いて多数の岩石を雪上に落下させた.そして,落石の材質(礫(2-1 cm径),小礫(0.5-1 cm径),粗粒砂(0.5-1 mm)),斜面の材質(礫および雪,その温度履歴,雪硬さ模)などの実験環境を変えながら実施した.そして,実験結果を元に,再度,長野北部地震発生時の状況と比較を行った.
結果
実験条件を様々に変えながら,確かな結果としてたどり着いたのは以下の6項目である.
1.岩石および岩石と雪の混合物は礫斜面に比べて雪面上をより遠方まで到達した.
2.雪面上では,岩石および岩石と雪の混合物は,より硬い雪面ほど遠方まで到達した.
3.雪面上では,岩石のみを落下させる時に比べて,岩石と雪の混合物は,より手前で停止した.
4.雪面上では,岩石と雪の混合物において,雪を含む量が多くなればなるほど,より手前で停止した.
5.雪面上では,岩石と雪の混合物に水を加えシャーベット状にしたものを落下させると,より手前で停止した.
6. 雪面上では,砂程度の粒径の岩石を落下させると,より大きな粒径の岩石にくらべて,より手前で停止した.
考察
 雪に摩擦の低減効果があるのは1の結果から明らかである.2の現象は,氷河上で岩石が長距離流れるいくつかの例(2000年ロシアのKolka災害など)と一致しており,平滑かつ硬い雪はより小さな摩擦を持つためである.3,4の結果は,おそらく雪に自身が砕けることによって衝撃を緩和する効果があり,雪によって岩石同士の衝突を和らげているものと思われる.移動体内部で岩石同士の衝突が吸収されれば,移動体を前方へ動かす駆動力も小さくなる.5の結果は雪層が多孔質かつ吸水性材料であるために,吸引力が働いているためと思わる,岩石と雪層との間に水があれば,水を介在することで岩石が雪層に吸着される.6の結果は雪による衝撃緩和効果が小さい粒子ほど相対的に大きく働くためと思われる.つまり,大きな塊状の移動体ほどより滑りやすく,発生直後にバラバラになったものは滑りにくいことを示唆している.
 現地の観察結果から,長野北部地震で発生した津南町辰ノ口の長距離流動現象では,上方では線状の滑走痕が確認されている.現地では実際に確認できていないが,これは硬い物性を雪が発揮しなければ形成され難く,雪が衝撃によって硬い物性を瞬時に雪が発揮した可能性がある.そして硬く透水性が低下した雪は上方に液化層を保持することができたのかもしれない.液化層が形成されれば,摩擦は極端に減少する.また,辰ノ口の長距離流動現象は,内部の撹乱が小さく,塊状体のまま移動したことが現地の観察から明らかになっている.これは移動体の前方では雪に衝突して急減速し後方からの岩石がそれを押すような形になり,塊状のまま雪をブルドージングしていったことを示しており,大きな塊となった移動体は雪の衝撃緩和効果を無視できたのだろう.一方で長距離運動を起こさない雪上落石現象では,雪によって落石の衝撃が緩和され,さらに,バラバラになることでさらに衝撃緩和の程度が高まったために,通常の地面に落下する落石現象よりも手前で停止すると思われる.また,衝撃力も小さいために,雪をその衝撃で硬化させることも困難であったと思われる.長野北部地震で発生した辰ノ口の現象は規模としては小規模な落石現象に近いが,狭い谷の雪面上に集中して落下しており,雪に集中的な衝撃が加わった.この衝撃は雪の瞬間的な硬化と透水性の低下をもたらしたのかもしれない.このような硬化現象や透水性の低下は,地域的に異なる雪の物性に大きく依存している.もしそうであるならば,この発生条件は地域に依存する可能性が高い.