日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS30_29PM2] 海底地すべりとその関連現象

2014年4月29日(火) 16:15 〜 18:00 511 (5F)

コンビーナ:*森田 澄人(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門)、北村 有迅(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:北村 有迅(鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻)、森田 澄人(独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門)

17:00 〜 17:15

[HDS30-04] 地震による海底地すべりでの地盤液状化による水膜現象の重要性

*國生 剛治1 (1.國生 剛治)

キーワード:地震時液状化, 水膜, 時間遅れ, 透水性

砂からなる海底地盤の滑りのメカニズムの可能性のひとつとして,地震時液状化による水膜現象が挙げられる。傾斜砂地盤の地震時流動破壊については,地盤工学的に要素試験レベルでの土の非排水せん断強度との関連を明らかにする努力が払われてきた.それらは,滑りが完全に非排水条件下で起きるとするものと,間隙水の移動による間隙の再配分を考慮するものとに二分される.飽和砂の非排水条件メカニズムを再現する非排水せん断力学試験を行うと,かなり低い相対密度(Dr)の砂(例えば新潟地震で大流動を起こした新潟市のDr=30~40%の砂)についても,液状化した後に20%以上の大きなひずみが発生するとダイレイタンシー効果により強度が回復する実験結果が得られ,緩い傾斜の斜面では大きな流動が起きないことになってしまう.また,流動はしばしば地震終了後に時間遅れをもって起きているが,非排水メカニズムではこれも説明できない.一方,地震後に斜面が時間遅れを持ってせん断破壊する原因として,完全な非排水条件ではなく間隙水の移動が関わっている可能性が推定されてきた.液状化層の上に低透水層がある場合,排出された余剰水が直下に捕捉されて間隙の緩いゾーンと密なゾーンを生じる.つまり透水性の不均質性に起因して,液状化直後から余剰間隙水の局所的な移動により間隙の再配分が起き,それがせん断強度に大きな影響を与えることが考えられる.間隙再配分効果が発揮される程度は地盤中の透水性の不均質性の度合によっている.海底地盤において成層構造は共通して見られ各層の透水係数は著しく変化していると考えられる.この観点から,低透水性の薄層やシームを挟んだ砂層が液状化した時に起きる現象を調べるために模型実験が行われた.透明アクリル円筒にシルトシームを挟み込んだ厚さ2m ほどの飽和砂層を作製し,ハンマーの衝撃を加えて瞬時に全層を液状化させる.すると砂とシルトの透水係数の違いにより,下部の液状化層から排出された余剰間隙水がシーム直下に捕捉され,水の層(水膜)が発生する.同様な水膜生成は粗砂の間に細砂層を挟んだ場合など色々な成層構造についても見られる.なおこれらの動画は参考文献に示すURL からダウンロードすることができる.水膜厚さと上部・下部砂層表面の沈下量は時間経過を辿り,砂層の厚さ・密度やシームの透水性などにより決まる時間の長さだけ水膜が存続することが分かる.この間の過剰間隙水圧は,初期には全層液状化状態の三角形分布から液状化の終息につれて下部から減少していくが,水膜の生成によりシルト層内に過剰な動水勾配が生じる.この間,シームを通って水膜の水が上部砂層に浸透し,水膜が消滅するまでこの状態が継続する. 実際の地盤において,このように水膜が形成されれば,地盤の安定性に大きな影響を与えることは当然予想される.厚さ5mm程度の円弧形状シルトシームを挟み込んだ2次元模型飽和砂斜面に,振動台により断面直交方向に正弦波振動を約3サイクル加えた実験によると,斜面流動の時刻歴をシームを挟まない均質斜面とシームを挟み込んだ斜面について,均質斜面では0.34G の大きな入力加速度に対して斜面変形はほぼ振動中(最初の2 秒間)に限られる.それに対して,シーム挟み込み斜面では0.18G の小さな入力に対して振動中はほとんど変形がないにも関わらず,振動終了後から21 秒までに大きな流動変形が起きる.このときシームの直下には水膜の生成が確認できる.つまり,振動中に液状化した砂層の下部から余剰水が上昇し始め,シルトシームの直下でほぼ連続的な水膜が形成されるまで時間を経てから円弧に沿って流動が起きるのである.水膜が形成されると斜面からのせん断応力が伝達され難くなる.そのため,それ以深の地盤ではせん断ひずみとそれに伴うダイレイタンシー効果による余剰水の間隙への吸収やせん断強度の回復は起きなくなり,水膜が継続的に存在できて側方流動がさらに起きやすくなると解釈できる. 以上のように,水膜によって滑り面の摩擦抵抗が完全にゼロになることはないが,大幅な強度低下が起きる可能性が模型実験で示された.水膜現象は極めて緩勾配の海底においても地滑りを惹き起こすメカニズムとして,重要な働きをしていると考えられる.つまり,海底地すべりが長距離流動を起こす要因としては慣性力の直接的影響より液状化後の水膜現象による強度低下の方が重要であると言えよう.