日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01_29PM1] International comparison of landscape appreciation

2014年4月29日(火) 14:15 〜 16:00 424 (4F)

コンビーナ:*水上 象吾(佛教大学社会学部公共政策学科)、座長:Rupprecht Christoph(Griffith School of Environment, Griffith University)、高山 範理(独立行政法人 森林総合研究所)

15:45 〜 16:00

[HGG01-P05_PG] フィジー共和国における自然風景評価の民族比較研究

ポスター講演3分口頭発表枠

*小菅 貴史1古谷 勝則1Verma Mukesh2 (1.千葉大学大学院園芸学研究科、2.フィジー国立大学社会科学部)

キーワード:風景評価, フィジー共和国, フィジー系, インド系, 比較

はじめに
フィジー共和国は南太平洋の島国で、住民はフィジー系が51%、インド系移民が44%である。本研究では、フィジー系とインド系の住民を対象に、両民族の風景理解の違いを明らかにすることを目的とした。

研究方法
1)まず日本とフィジーの両国の自然風景の写真を収集した。次に、「滝」「森林」「海岸」「河川」「田畑」「湿地」「山岳」「湖」の景観をフィジー33枚、日本39枚、合計72枚の写真を選び出した。2)これら写真を対象に一般人141 名に、写真をグループに分けてもらい、それぞれのグループに名称をつけた。3)さらに、同じ被験者が、写真を好ましさ(5段階)と異国情緒(3段階)で評価した。4)、また、フィジーらしさを示す写真を3枚選択させることによって、その国らしい自然風景を抽出した。調査は、2013年8月から12月にかけフィジー共和国に滞在し、フィジーに住む住民に対して実施した。調査は面接方式で,141 名から回答を得た。写真グループの分析には、クラスター分析(ウォード法、平方ユークリッド距離)を用いた。民族間の比較には、マン・ホイットニーのU 検定を使用した。

研究結果と考察
回答者の性別は、男性54名、女性87名であった。回答者の年齢は10 代が34名,20 代が57名,30 代が24名,40 代が12 名,50 代が5 名,60 代以上が9名であった。回答者の職業では,学生が57名,それ以外が84名であった。回答者の民族では,フィジー系が87名,インド系が52名であった。海外旅行の経験がある回答者は28名(20%)であった。
写真の分類では、「湿地」の写真で民族間に違いが見られた。フィジー系は「湿地」と「森林」を別々のグループに分類した。また、フィジー系では「湿地」が「河川」に含まれていた。一方、インド系では「湿地」が「森林」に含まれる場合と「河川」に含まれる場合があった。
次に「湖」の分類についてみた。フィジー系もインド系も、「湖」を「海岸」と一緒にして分類していた。フィジーでは、陸域に占める水面積率が極僅かであり、「湖」という認識がない可能性がある。「海岸」については両民族ともに周辺には岩場や木々が少ない砂浜景観と岩礁が広がる岩礁海岸の2グループに分類されていた。
好ましさの分析では、6枚の写真で有意差が見られた。6枚のうち5枚がフィジーの風景写真であり、1枚が日本の風景写真であった。異国情緒の評価では、4枚の写真が有意差を示した。この4 枚のうち、3枚がフィジーの風景写真であり、1枚が日本の風景写真であった。フィジーの風景写真の好ましさでは、フィジー系の方がインド系より4.06高い値を示した。フィジーらしさを示す写真の選択では、フィジー系とインド系でばらつきが見られた。フィジー人は、田畑21%、山岳17%、海岸17%を選択した。インド人は、海岸44%、川14%、湿地12%を選択した。フィジー系は、フィジーで主食とされるタロイモ畑や集落等に広がる山岳景観を選択し、フィジーの伝統的な風景を選択した可能性が考えられる。一方、インド系が海岸景観を選択したことから、フィジーに点在するリゾート地を思い浮かべている可能性が考えられる。
フィジー系の好ましさでは「滝(4.43)」「湖(4.41)」「河川(4.14)」「海岸(4.09)」であり、インド系が「滝(4.41)」「湖(4.33)」「海岸(4.08)」「河川(4.02)」であった。両民族とも水辺に関連する写真を好ましく感じていた。特に「海岸」の写真については、フィジーの見慣れた風景として捉えている可能性がある。「滝」や「湖」は、日本の写真が多く、見慣れた風景ではなく、異国の風景(日本の写真)として捉えている。一方、「湿地」については、他の水辺に関連する写真とは異なり、好感度は低くなっていた。

おわりに
フィジー系とインド系は、好ましさについては、有意差の見られた6枚の写真を除いて大きな差は見られなかった。しかし、フィジーらしい写真では、フィジー系の伝統的な風景と、インド系の海岸風景に違いがみられた。