日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM22_30AM2] 地形

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 422 (4F)

コンビーナ:*島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、小口 千明(埼玉大学・地圏科学研究センター)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、座長:瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

11:15 〜 11:30

[HGM22-09] 宇宙線生成核種10Beより求めた小鹿渓谷の下刻速度の縦断分布:滝と滝壺区間および穿入蛇行区間の発達過程

*渡壁 卓磨1小玉 芳敬2松四 雄騎3松崎 浩之4 (1.鳥取大学大学院地域学研究科、2.鳥取大学地域学部、3.京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境分野、4.東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻)

キーワード:岩盤侵食河川, 下刻速度, 宇宙線生成核種10Be, 滝と滝壺区間, 穿入蛇行区間

研究対象である鳥取県三朝町の小鹿渓谷では,渓床勾配と河相との対応関係が知られている.渓床勾配が0.04-0.05を示す瀬淵河床区間は,径1 m以下の礫が瀬をなす区間である.渓床勾配が0.08を示す区間には,径2 m以上の巨礫が集積しており,ここを巨礫の集積区間と呼ぶ.これらの渓床勾配は,上流側や支谷から供給された砂礫を滞りなく流下させるような動的平衡勾配になっていると考えられている(小玉・中村,1997).小鹿渓谷の中央部には,最急勾配(0.13)の滝と滝壺区間がある.この滝と滝壺区間における縦断測量の結果は,滝が上流方向へ後退するよりも,むしろ位置を保ったまま下刻する作用の方が強く働いていることを示す(小玉,2004).しかし渓谷の発達過程の具体像に関しては,これまでほとんど知見が認められない.本研究の目的は,宇宙線生成核種10Beを用いて渓谷内に散在する侵食段丘面から縦断的に7測線を選び,それらの編年を行い,下刻速度の縦断変化や時代的変遷を明らかにすることである.その上で,小鹿渓谷の発達過程についてより具体的に考察を加える.その結果,小鹿渓谷の侵食段丘面の地表面露出年代は,最も新しいもので1.2 kyr(比高1.2 m),最も古いものは現河床が保持している核種濃度を考慮に入れて50.2 kyr(比高11.0 m)となった.小鹿渓谷内の平均下刻速度は測線によって変化し,0.24~1.40 mm/yrの値をとった.しかし全測線の下刻速度は,中国山地の隆起速度よりも少なくとも2倍以上速い.それゆえに,深い谷地形を保ちながら渓谷が維持されていると考えられる.平均下刻速度の特徴を見ると,瀬淵河床区間と巨礫の集積区間で比較的速く(0.64~1.40 mm/yr),下流ほど増大する傾向を示した.いっぽう滝と滝壺区間では0.24~0.57 mm/yrと比較的遅かった.特に上流側の神縄滝と雄淵(0.24 mm/yr)で最も遅く,下流へ向けて玉藻滝と雌淵(0.33 mm/yr),水晶滝と弥六淵(0.57 mm/yr)と順次速度を増した.また穿入蛇行の顕著なBig Bend区間では,瀬淵河床区間であるにも関わらず0.36 mm/yrと遅かった.これらの下刻速度の違いを流砂現象に関連する河道形状の変遷として考察した.まず,滝と滝壺区間の発達過程について検討した.滝と滝壺区間において,滝と滝壺の形成・成長に伴い河床の凹凸(粗度)が増大することで流砂効率が落ちる.これを補うために増傾斜化が進行して,その結果,下刻速度の遅い測線が出現したと考えた.滝と滝壺区間の最下流に位置する弥六淵では下刻速度が,31.1~17.0 kyrまでは0.99 mm/yrと速かったが,17.0 kyr以降は0.30~0.44 mm/yrと遅くなった.前者の下刻速度は,瀬淵河床区間のものとほぼ同じであった.このことは,水晶滝と弥六淵の形成が17.0 kyr前後に始まったことを示唆する.測深の結果は,弥六淵の形態はいまだ発達段階にあり,若い地形であることを支持する.神縄滝と雄淵,玉藻滝と雌淵では5万年前にすでに滝と滝壺が形成されており,それらの成長に伴って,増傾斜化作用が継続してきた.そのため,下刻速度が遅くなったと理解できる.雄淵から弥六淵へと順に下刻速度が増大しているのは,滝と滝壺の発達が上流側から下流側へと伝播した反映と考えられる.このように小鹿渓谷の滝?滝壺区間は,上流から下流に向けて河道形態が発達してきたモデルを提案できた.弥六淵の形態から,今後も増傾斜化がしばらくつづくと予想される. つぎに,Big Bend区間における穿入蛇行の発達過程を考察した.ここでは上流側の瀬淵河床区間(D・E測線)の下刻速度が,下流側に位置する滝と滝壺区間の下刻速度より約3倍も速いため,必然的に緩勾配化が進行した.その結果,砂礫が堆積しやすくなり,砂礫堆の形成に伴う水流の集中発散が発生し,河道の側方侵食が進んだ.すると渓岸崩壊が多発し,そこから供給された砂礫が砂礫堆をますます発達させた.この過程で大規模な斜面崩壊を招き,Big Bend区間には堆積段丘状の地形を現在も残し,広い谷底を形成してきた.このようにして小鹿渓谷の中流部に穿入蛇行の特異な区間が発達したモデルを提案できた. 本研究では,宇宙線生成核種10Beを用いて小鹿渓谷内に散在する侵食段丘面の下刻速度を求めた結果,以下のことが明らかになった.小鹿渓谷の下刻速度は,瀬淵河床区間と巨礫の集積区間で比較的速く(0.64~1.40 mm/yr),下流ほど増大する傾向を示す.滝と滝壺区間の下刻速度は相対的に遅く,下流に向かって下刻速度が増大する.つまり滝―滝壺の形成・発達に応じた増傾斜区間をなしている.滝?滝壺区間の上流側に続く穿入蛇行が顕著なBig Bend区間は,上下流の下刻速度の差から生まれた緩勾配化により,砂礫堆が発達し,側方侵食が進展して形成された地形である.