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[HQR23-03] 長野県広原湿原の花粉組成からみた最終氷期以降の森林限界の変遷
キーワード:花粉分析, 植生変遷, 森林限界, 黒曜石, 先史時代, 中部日本
本研究では,過去の人類活動を取り巻いた植生・気候環境を復元するため,長野県広原湿原で採取された長さ約3.8mのHB-1Aコアを用いて花粉分析と微粒炭分析を行った。この結果から,高木花粉の組成および流入量に基づき広原湿原周辺における最終氷期極相期以降の森林植生および気候変動について考察した。約30,000~19,000年前までは,湿原周辺では気候の寒冷化に伴う森林限界の低下によって非森林域となり,草本植生や荒れ地の植生景観が広がっていた。約19,000年前になると,気候の温暖化により森林限界が上昇し,標高1,400m付近を通過する。この時期に湿原周辺は森林域となり,トウヒ属やマツ属、ツガ属などの亜寒帯性針葉樹とカバノキ属の混交林に覆われた。約16,000年前にはカバノキ属の優占する森林になった。約12,000年前には,ほぼ現在と同様の温暖な気候になり,コナラ亜属やクマシデ属,ブナ属などの冷温帯性落葉広葉樹林が広がった。その後,大きな変化は見られないものの,4000年前以降にはイチイ科-ヒノキ科やツガ属,モミ属などの温帯性針葉樹が増加した。また,約500年前からは森林伐採などによる大規模な人為撹乱に伴ってアカマツが急増すると共に,約100年前にはカラマツの一斉植林が行われた。このように本研究から得られた広原湿原周辺における最終氷期極相期以降の森林限界の変化は,旧石器時代以降の人類活動にも大きな影響を与えたものと考えられる。