日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR23_1AM2] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2014年5月1日(木) 11:00 〜 11:30 414 (4F)

コンビーナ:*宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、小野 昭(明治大学黒曜石研究センター)、座長:藤原 治(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)

11:15 〜 11:30

[HQR23-P01_PG] カワニナ遺物の酸素同位体比曲線に記録された沖縄県サキタリ洞遺跡での旧石器人の活動と夏期の温度条件

ポスター講演3分口頭発表枠

藤田 ひかる1曽根 知実1、*狩野 彰宏1奥村 知世2藤田 祐樹3山崎 真治3片桐 千亜紀3 (1.九州大学比文、2.海洋研究開発機構、3.沖縄県立博物館・美術館)

キーワード:旧石器時代, 酸素同位体比, 沖縄

沖縄県南城市の玉泉洞ケイブシステム内に位置する位置するサキタリ洞遺跡では,2009年の調査開始以来,脊椎動物を含む多くの動物遺物とともに,1万2千年前(琉球における旧石器時代)のヒト乳歯を含む貴重な遺物が発見されている(山崎ほか, 2012)。サキタリ洞の動物遺物の中で最も顕著なのは淡水域に生息するモクズガニであり,そのハサミのサイズがそろって大きいことから,モクズガニが最も大きくなる秋季の個体ではないかと考えられている。カニは食用にされていた可能性が高く,旧石器人は秋にこの洞窟を利用していたのかもしれない。
本研究では,この仮説を検証するために,モクズガニとともに出土するカワニナに着目した。カワニナは淡水域に生息する巻貝であり,炭酸カルシウム(アラレ石)で構成される殻は螺旋状に外側へと成長する。カワニナ殻の酸素同位体比を,螺旋状の成長軸に沿って計測すると,その成長期間中の河川水温の季節変化を記録される(狩野ほか, 2008)。カワニナが旧石器人の食料となっていれば,最も外側の酸素同位体比からその採取時期が特定できる。本研究では,サキタリ洞遺跡の約19000年前と約12400年前の地層より出土したカワニナ遺物に加え,サキタリ洞の東方約5 kmの垣花樋川において昨年11月に採集した現世カワニナを試料として用い,それぞれの酸素安定同位体比を測定した。
サキタリ洞カワニナ遺物の多くの個体はサインカーブ状の酸素安定同位体曲線を描く。カーブの振幅は2パーミルほどであり,河川水の酸素同位体比が安定していれば,水温の年変化幅が8度と見積もられ,それが水温の季節変化と見なしても矛盾しない。さらに重要な事は,多くの個体の最も外側の同位体比がサインカーブ上の秋季に位置することである。すなわち,カワニナは秋季に採集されていたことになり,モクズガニの遺物に基づく「秋季居住仮説」は支持された。一方,現世カワニナの同位体曲線はサインカーブを描かず,初夏に生まれた若い個体であると考えられる。現世カワニナの酸素同位体比の低い部分は夏季の記録である。そこで,これをカワニナ遺物の夏季の酸素同位体比を比較すると,現世の値の方が1?1.5パーミルほど低いことが分った。仮に河川水の酸素同位体比が同じであった場合,旧石器時代の夏の河川水は現在より4?6度ほど冷たかったと見積もられる。

狩野彰宏・鈴木将治・堀 真子 (2008) カワニナの酸素安定同位体曲線から読み取れること.帝釈峡遺跡発掘調査室年報,22, 47-61.
山崎真治・藤田祐樹・片桐千亜紀・國木田大・松浦秀治・諏訪 元・大城逸朗 (2012) 沖縄県南城市サキタリ洞遺跡の発掘調査(2009~2011年)-沖縄諸島における新たな更新世人類遺跡- Anthropological Science (Japanese Series), 120, 121-134.