日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR23_1PO1] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2014年5月1日(木) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、小野 昭(明治大学黒曜石研究センター)

18:15 〜 19:30

[HQR23-P03] 猪苗代湖堆積物コアの全有機炭素・全窒素含有率変動を用いた過去5万年間の古気候・古環境解析

*渡邊 慶1長橋 良隆2廣瀬 孝太郎3公文 富士夫4 (1.信州大学大学院理工学系研究科、2.福島大学 共生システム理工学類、3.福島大学大学院共生システム理工学研究科、4.信州大学理学部物質循環学科)

キーワード:猪苗代湖, 全有機炭素含有率, 全窒素含有率, C/N, 古環境, 古気候

本研究では,福島県猪苗代湖湖心部で,掘削のセクション境界をずらして採取されたINW2012-1とINW2012-2の2つのコア試料を統合した複合層序(層厚約28 m)を対象にして,1 cmおきに約1380試料の全有機炭素(TOC : total organic carbon)と全窒素(TN : total nitrogen)の含有量を測定した.植物遺体6試料に対して測定された放射性炭素年代値をもとに年代モデルを作成したが,コア試料に確認された指標テフラの年代値とも矛盾しない.この年代モデルでは1試料あたり約28~50年の時間分解になり,約100年ごとのTOC, TN含有率の経年変動を約4.8 万年前まで遡って測定したことになる.4.2万年前以前は,河川や三角州,湿地などが繰り返す環境であったが,4.2万年前ごろに水位の上昇がおこり,湖心部では粘土からシルトなどの細粒砕屑物が堆積する深い水域が形成された.深い水域が安定した4.2万年前以降のTOC含有率の経年変動では,MIS 3後半のやや高い時期,MIS 2のやや低い時 期,MIS 2末期からMIS 1にかけての緩やかな上昇,MIS 1の高い時期が識別され,全体として長野県北部の野尻湖湖底堆積物におけるTOCの経年変動とよく類似していた.また,MIS 3では短周期での周期的増減が顕著である点も共通していた.ただ,MIS 2のTOC濃度があまり低くないこと,およびMIS 2/1境界付近が漸移的な増加であることは相違点であり,堆積速度の変化が影響していることが示唆された.また,猪苗代湖に近い福島県矢の原湿原の化石花粉組成の変遷と比較すると,TOC変動と同調した植生変化が認められた.
これらの結果は,猪苗代湖におけるTOC含有率の経年変動が,気候変動に強く影響された湖内の生物生産性の変動を表していることを示す.そのことから,猪苗代湖TOCは猪苗代湖周辺域の寒暖変動を高時間分解能で表す指標とみることができ,東北地方における今後の古気候研究の資料として有意義である.
謝辞:本研究で使用したコア試料は, 福島大学磐梯朝日遷移プロジェクトで採取されたものである.