11:15 〜 11:30
[HQR23-P05_PG] 薩摩半島のシラス分布域における侵食地形の発達過程と斜面崩壊の発生機構の関係
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:シラス, 斜面崩壊, 履歴, 地形発達, 九州南部
全国には, 火砕流堆積物が分布する地域が点在しており, とくに鹿児島県のシラス堆積物(以下では, 入戸火砕流堆積物に限定してシラスという用語を使用)が分布する崖は数十年の周期で崩壊を繰り返す, 極めて周期の短い例である(塚本, 1993). この堆積物の特徴は, 火砕流堆積物の溶結部が一般に少なく, 非溶結部が九州南部の広範囲に分布しており, 侵食されやすい特性があるため, シラス斜面の崩壊を各地で発生させている. シラスは, 約29,000 年前(町田・新井, 2003)に, 姶良カルデラを給源として, 鹿児島県本土のほぼ全域のみならず, 約90km離れた地域まで広がった巨大火砕流の堆積物である(横山, 2000).
これまでの既存研究によって, 南九州に分布する最近約3万年間のテフラ編年(奥野, 2002など)や鹿児島湾北西岸における縄文海進最盛期以降の地形発達(森脇ほか, 2002) , シラス台地開析谷の主に下刻に伴う谷壁斜面の成長過程の解明(Matsukura, Y., 1987 )やシラスの急斜面における崖崩れに周期性があり, 崩壊後の表層土の再形成までの期間は, 70~ 80年程度であると推定(下川ほか, 1989)した報告がある. 他方, シラス堆積後に堆積した砂礫層や火山灰層と,シラスの侵食地形との地形層序関係を研究した例は少ない(桐野, 1988).横山(2000)は, シラス台地を刻む現・旧開析谷のうち,旧開析谷は化石谷であることを論じているが, その成長・発達の停止原因は不明であることも指摘している.
そこで本研究では, これまでに検討が不十分であった, シラス分布域における侵食地形の長期的発達過程と斜面崩壊の発生機構の関係について, 発達史地形学の視点から解明することを目的とする. 調査地域の薩摩半島では, 旧開析谷がよく残存し,現開析谷の下刻作用は不活発と推定されるが,崩壊跡地も中程度の密度で分布している点に特徴がある. 人口が集中する鹿児島市の市街地は, 沖積平野上に形成され, 構成する沖積層は周辺のシラス台地から供給された火山砕屑物からなる地域である.
本研究では, はじめに国土地理院発行(1975年撮影)のカラー空中写真より判読を行い, 地形分類図を作成した. また, 調査地域において, 国土地理院の基盤地図情報から数値標高モデル(10mDEM)を用いて, ArcGISより傾斜分布図を作成した. さらに, 現地調査では流水によるシラスの侵食や斜面崩壊などの侵食・削剥過程で生じた台地崖に着目し, 試料のサンプリング, シュミットハンマーによる堆積物の強度測定を行った. シラス自身がもつ化学的性質と崩壊発生機構の関係性を明らかにするため, シラスの粒度, 含水率, 主要化学成分の分析も行った.
薩摩半島西部のシラス分布域における地形分類では, 主に, 旧開析谷底, 段丘面, 現開析谷底, 新旧崩壊斜面に分類することができる. 本流谷から支谷へ, 下流から上流へ現開析谷を追跡すると, 谷幅が急減する区間が認められ, そうした場所に相対的に高密度で崩壊跡地が分布している. 現開析谷の谷幅拡大によって,谷壁斜面での崩壊が継続してきたと考えられる. 開析は, 薩摩半島西側の東シナ海に近い場所に位置するシラス原の下流側の縁辺部から始まり, 徐々に上流側へ進行したと推定できる. すなわち, シラスの堆積面の標高が低く,開析谷底が侵食基準面に近い状況が,後氷期に継続してきたと推定される. したがって, この間に現開析谷の側方侵食が継続してきたことが,開析谷壁の下端部付近で崩壊が発生する背景をなしていると考えられる. 長期的には, 現開析谷の谷幅拡大プロセスが卓越する場所において崩壊ポテンシャルが高いといえる. 本発表では, 作成した地形分類図と傾斜分布図, 現地調査で得られたデータをもとに, マクロな地形変化の歴史と崩壊発生場との関係性について論じる.
これまでの既存研究によって, 南九州に分布する最近約3万年間のテフラ編年(奥野, 2002など)や鹿児島湾北西岸における縄文海進最盛期以降の地形発達(森脇ほか, 2002) , シラス台地開析谷の主に下刻に伴う谷壁斜面の成長過程の解明(Matsukura, Y., 1987 )やシラスの急斜面における崖崩れに周期性があり, 崩壊後の表層土の再形成までの期間は, 70~ 80年程度であると推定(下川ほか, 1989)した報告がある. 他方, シラス堆積後に堆積した砂礫層や火山灰層と,シラスの侵食地形との地形層序関係を研究した例は少ない(桐野, 1988).横山(2000)は, シラス台地を刻む現・旧開析谷のうち,旧開析谷は化石谷であることを論じているが, その成長・発達の停止原因は不明であることも指摘している.
そこで本研究では, これまでに検討が不十分であった, シラス分布域における侵食地形の長期的発達過程と斜面崩壊の発生機構の関係について, 発達史地形学の視点から解明することを目的とする. 調査地域の薩摩半島では, 旧開析谷がよく残存し,現開析谷の下刻作用は不活発と推定されるが,崩壊跡地も中程度の密度で分布している点に特徴がある. 人口が集中する鹿児島市の市街地は, 沖積平野上に形成され, 構成する沖積層は周辺のシラス台地から供給された火山砕屑物からなる地域である.
本研究では, はじめに国土地理院発行(1975年撮影)のカラー空中写真より判読を行い, 地形分類図を作成した. また, 調査地域において, 国土地理院の基盤地図情報から数値標高モデル(10mDEM)を用いて, ArcGISより傾斜分布図を作成した. さらに, 現地調査では流水によるシラスの侵食や斜面崩壊などの侵食・削剥過程で生じた台地崖に着目し, 試料のサンプリング, シュミットハンマーによる堆積物の強度測定を行った. シラス自身がもつ化学的性質と崩壊発生機構の関係性を明らかにするため, シラスの粒度, 含水率, 主要化学成分の分析も行った.
薩摩半島西部のシラス分布域における地形分類では, 主に, 旧開析谷底, 段丘面, 現開析谷底, 新旧崩壊斜面に分類することができる. 本流谷から支谷へ, 下流から上流へ現開析谷を追跡すると, 谷幅が急減する区間が認められ, そうした場所に相対的に高密度で崩壊跡地が分布している. 現開析谷の谷幅拡大によって,谷壁斜面での崩壊が継続してきたと考えられる. 開析は, 薩摩半島西側の東シナ海に近い場所に位置するシラス原の下流側の縁辺部から始まり, 徐々に上流側へ進行したと推定できる. すなわち, シラスの堆積面の標高が低く,開析谷底が侵食基準面に近い状況が,後氷期に継続してきたと推定される. したがって, この間に現開析谷の側方侵食が継続してきたことが,開析谷壁の下端部付近で崩壊が発生する背景をなしていると考えられる. 長期的には, 現開析谷の谷幅拡大プロセスが卓越する場所において崩壊ポテンシャルが高いといえる. 本発表では, 作成した地形分類図と傾斜分布図, 現地調査で得られたデータをもとに, マクロな地形変化の歴史と崩壊発生場との関係性について論じる.