日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR23_1AM2] ヒト-環境系の時系列ダイナミクス

2014年5月1日(木) 11:00 〜 11:30 414 (4F)

コンビーナ:*宮内 崇裕(千葉大学大学院理学研究科地球生命圏科学専攻地球科学コース)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、小野 昭(明治大学黒曜石研究センター)、座長:藤原 治(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)

11:15 〜 11:30

[HQR23-P08_PG] ダムでの土砂堆積が深海底の堆積作用に影響を及ぼす可能性

ポスター講演3分口頭発表枠

*白井 正明1大村 亜希子2林崎 涼1宇津川 喬子1 (1.首都大学東京 地理学教室、2.東京大学)

キーワード:ダム, 半遠洋性堆積物, 堆積速度

河川における巨大ダムや砂防ダム群の建設が,下流および海岸域への砂質粒子の運搬を阻害し,海岸線の後退を引き起こしていることは良く知られている.一方でダム湖の堆積物のほとんどは泥質粒子から成ることを考慮すると,河川からの土砂供給の減少が深海の半遠洋的環境にまで影響を与えている可能性がある.人類活動が深海底に及ぼす影響の評価を目的に,日本近海のいくつかの海域で採取したコア試料の鉛同位体(Pb-210)の濃度変化を基に,過去約100年間の堆積速度(Mass Accumulation Rate; MAR)変化を見積もった.
堆積速度の変化を見積もったのは,2004-2010年度に実施した学術研究船淡青丸研究航海において採取された,太平洋側の遠州沖と熊野沖,日本海側の新潟沖のコア試料である.発表者らはマルチプルコアラー(コア長最大60 cm)を用いて,これらの海域から相当数の表層コア試料を採取したが,今回の解析にはコア試料上部で泥分が卓越し,明瞭な砂層(タービダイト)を挟まないものを選んだ.またタービダイトの影響を除くため,基本的に海底谷内で採取したコアは検討対象から除いた.
各測定試料は1cmまたは2cm厚にスライスし,110℃,12時間以上の乾燥後,軽く粉砕・撹拌する.容器に封入して約1ヶ月後に首都大学東京地理学教室所有のORTEC社製Ge半導体検出器を用いてガンマ線の測定を行った.Pb-210の放射線濃度よりPb-214の放射線濃度を差し引くことにより,大気中から降下した過剰Pb-210の放射線濃度変化を見積もり,それを基に堆積速度を算出する(例えば,金井,2000).Pb-210の半減期は約22年であり,過去100年間程度の堆積速度の見積もりが可能である.さらに東京大学大気海洋研究所のヘリウム置換式ピクノメーターを用いて7 cc(一辺2.25 cm)キューブ試料の乾燥かさ比重を算出し,半遠洋性沈積粒子の堆積速度(MAR)に換算した.
遠州沖コアで検討対象とした外縁隆起帯南側斜面の小海盆(水深約2500 m)の2本のコアは2cm厚スライスで保管しており,1本からは堆積速度の変化は検出できなかったが,もう片方からは1930-1940年頃にMARが約1/3に減少したと見積もられた.天竜川水系では1930年代にダム建設が始まり,1956年に流域最大の佐久間ダムが完成した.西部熊野トラフのほぼ中央部(水深約2100m)で採取した2本のコアからは,1940-1960年頃にMARが1/2から1/3に減少している.熊野川水系には1937年以降ダムが建設され,流域最大の池原ダムを含む大部分のダムは1960年代に建設された.新潟沖のコアについては2014年1月現在,Pb-210測定,孔隙率測定の途中である.堆積曲線を求めることができた最上トラフ斜面の海底谷沿い(水深約400m)で採取したコアでは,1960-1970年にMARが約2/3に減少している.信濃川は1922年に大河津分水路(新信濃川)が開通して以来,基本的に増水時の水は寺泊沖に排出されてしまう.また阿賀野川水系最大の奥只見ダムは1960年に竣工している.
Pb-210による堆積速度と年代の見積もりは,分取サンプルの厚み(年代幅)にも大きな影響を受けることもあり,今回の見積もりが妥当か今後も検討を続ける必要がある.しかし3つの海域全てで20世紀半ばに堆積速度の減少が見積もられたことは重要である.ダムの建設時期とMAR低下の大まかな同時性,ダム堆積物と半遠洋性堆積物の粒度の類似性などを考慮すると,これらの堆積速度の減少はダム建設に伴う河川からの細粒物質の排出の減少が原因となっている可能性が高いと言えよう.今後測定例を増やすと共に,ダム堆積物の関与を示す直接的な手掛かりを求める予定である.