日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR24_1PM1] 平野地域の第四紀層序と地質構造

2014年5月1日(木) 14:15 〜 15:45 313 (3F)

コンビーナ:*宮地 良典(産業技術総合研究所)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)

14:15 〜 14:30

[HQR24-01] 風蓮湖バリアーシステムの地形発達史から読み解く根室海峡沿岸域の過去5500年間の海面変動と地殻変動

*七山 太1重野 聖之2長谷川 健3渡辺 和明1石渡 一人4池田 保夫5内田 康人6 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門、2.明治コンサルタント(株)本店、3.茨城大学理学部、4.別海町郷土資料館、5.北海道教育大学釧路校、6.北海道立総合研究機構 地質研究所)

キーワード:風蓮湖, バリアースピット, 地形発達史, 根室海峡, 海面変動, 地殻変動

北海道東部,風蓮湖周辺には,我が国には珍しい,現在も活動的なバリアーシステムが認められており,風蓮湖バリアーシステムと呼称されている.このバリアーシステムは,西別川河口からもたらされた土砂が,根室海峡において冬季に卓越するNE方向及びENE方向の波浪によって南東向きの沿岸漂砂系が発生し,根室半島に阻まれて大量な堆砂が生じることによって維持されている(奥野ほか,1997).このうち別海町側に位置する走古丹バリアースピットは,西別川河口から南東方向に延びる総延長12.5kmの明瞭な分岐砂嘴の形状をなしている.衛星写真判読によって,5 列の浜堤が認識され,それらの分岐関係によって地形発達史が解読できる. 我々は,2010年以降,走古丹バリアースピットにおいて浜堤を横断する5本の測線(H0, H1, H2, H3, H6)を設定し,(1) GPSスタティックとトータルステーションを用いた地形測量と地形断面図の作成,(2)地中レーダー(NOGGIN 250MHz)探査と探査記録を用いた各浜堤の離水標高の計測,(3) ハンドボーリング調査および(4)掘削試料を用いたAMS14C年代測定およびテフラによる年代の検討,(5)EC,珪藻および花粉分析による古環境の推定,(6)海浜砂と砂丘砂の粒度分析による判別,(7)水域の音波探査や測深調査,などを科研費予算を用いて実施してきている.これまでの成果として,各浜堤間低地の泥炭層の掘削により,上位から7層の完新世テフラ,Ta-a(1739年樽前火山起源),Ko-c2(1694年北海道駒ヶ岳火山起源), B-Tm(929年白頭山火山起源)およびMa-b(10世紀摩周火山起源), Ta-c(2.5ka樽前火山起源), Ma-d(4.0ka摩周火山起源;山元ほか,2010),Ma-e(5.2ka摩周火山起源;山元ほか,2010)が見いだされ,これらを時間面として,約1000年オーダーでの地形発達史を解読することが出来たことである.即ち,風蓮湖バリアーシステムが現在の位置に成立したのは,H6測線での泥炭層基底の年代(湿原環境の開始)から5500 年前と推定されるが,その下位の海進期バリアーは現在浸食されて地形としては存在しない.その後,現在の海面停滞期バリアーシステムに移行した.5200年前と4000年前に大規模な海進が繰り返し起こり,その都度,広域に干潟環境が広域に広がった.BR5は4000年前に離水した湾央砂嘴が起源と考えている.一方,最も若い浜堤であるBR1はTa-a, Ko-c2に被覆されないことから,17世紀以降に過去のバリアースピット(BR2-BR5)の根元を浸食するように最も外洋側に出現し,西別川河口から岬の先端(トウフト)まで明確に連続する現在活動的な浜堤である.BR2はハルタモシリ付近からBR1と分岐し西別川河口まで連続する,この浜堤はTa-a, Ko-c2に直接被覆されることから,17世紀に離水した可能性が高い.BR4の発生年代は,B-Tm+Ma-bに被覆されることから,9-10世紀と推定できる.走古丹の集落が立地するBR3の発生年代は明確ではないが,17世紀よりも古く10世紀より若い,おそらく12-13世紀と予測される. 南千島海溝沿岸域では500 年間隔で発生した巨大地震(Mw8.5)の存在が明確になり(Nanayama et al., 2003),特にこの地の地盤は17 世紀巨大地震時(もしくはその後)には1-2m隆起し,逆に地震以降現在まで8.5mm/年の速さで沈降し続けてきたことがわかっている(Atwater et al., 2004).澤井(2007)は,過去2500年間に,約300 年前,約700-300年前,約1300-1000年前,約2400-1700年前の4回の離水イベントがあったとの仮説を述べている.ゆえに,少なくともBR5よりも若い分岐砂嘴の出現には,南千島海溝の地震性地殻変動が関わっていた可能性がある.本研究は,JSPS科研費 23540539の助成を受けたものである.引用文献:Atwater, B.F. et al., 2004, The Holocene, 14, 487-501. Nanayama, F. et al., 2003, Nature, 424, 660-663. 奥野正洋ほか,1997,土木学会北海道支部論文報告集,no. 53(B), 284-287.澤井祐紀, 2007,第四紀研究, 46, 363-383. 山元孝広ほか,2010,地質調査研究報告, 61, 161-170.