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[HSC25-03] 地理空間情報から地域の災害特性とそれに対応した被災情報収集を考える
キーワード:地理的地域特性区分, 地理空間情報, 被災情報収集, 災害早期対応, 合成開口レーダー
演者はこれまでに、所属する機関の業務の一環として、災害発生直後の被災概要が明らかでない時点で、既存の地理空間情報を活用して、どのような情報発信が可能かを検討してきた。ここでいう既存の地理空間情報とは、10mDEM、シームレス地質図、地すべり分布図、地形分類データなどである。それらを使った早期の被害予想のアルゴリズムとして、斜面崩壊については「六甲式」をベースにした崩壊予想(神谷ほか,2012)や、震度と地形分類による液状化被害予想テーブル(小荒井,2013a)を提案し、地震時地盤被害予想システム(神谷,2013)として実装し、現在は国土地理院内で試験運用して、2013年3月の栃木県北部の地震や4月の淡路島の地震では概ね適切な予想を行っている。一方で、事前の災害予想のためのデータとして、全国の地震による地盤災害特性データの作成(中埜ほか,2013)や災害特性による地理的地域特性区分(現時点では関東甲信越のみ試作)(小荒井,2013b)を行っている。前者については、このデータを中央政府に事前に提供する予定である。後者の地理的地域特性区分は、関東甲信越で約100の、全国で約500の地域に区分するもので、英国等では地域特性が同質の地域をゾーニングした地域区分ごと開発計画・保全計画を国レベルで策定しており、このような地理的地域特性区分に応じたインベントリーを作成することで、レジリエントな国土を形成するための国土計画の良き検討材料になると考える。このような視点で、このような地域区分やそのために必要な地理空間情報がどのように活用可能かの検討を、2014年春の日本地理学会のシンポジウム「レジリエントな国土・地域社会の構築に向けた地理学的課題」の中で議論する予定である。本論では、この地理的地域特性区分が、国土計画レベルの長期的な活用だけでなく、災害早期対応にどのように適用可能かを考える。小荒井ほか(2014)は災害視点の地理的地域特性区分を15分類に体系化している。体系化した区分毎に起こりうる災害特性に違いがあり、その違いに応じた被災情報収集を考える必要がある。山地の斜面災害の場合、表層崩壊、地すべり、深層・山体崩壊などのパターンがあり、後者2つを起こしやすい地形・地質には特徴があるため、そのリスクの高い地域については、それ以外の地域とは違った災害情報収集必要である。山地で最も大きな問題は孤立集落の把握であり、斜面崩壊箇所と道路ネットワーク情報の重ね合わせによる情報収集が重要となる。大規模な地すべりや山体崩壊を起こしうる地域については、大規模2次災害の危険把握の視点から土砂ダムによる湛水域の抽出が重要であるが、これについては衛星SARや航空機SARが有効であり、最近では2011年の紀伊半島の深層崩壊などで有効性を発揮している。平野部については、液状化の被害も深刻であるが、人命等も考えた上で早期の情報収集が必要なのは津波被害である。津波の浸水域の把握やモニタリングでは、2011年東日本大震災の事例では衛星SARが有効であった。しかし、早期に緊急援助をする視点からは壊滅的な被害を受けた地域の抽出が重要であり、小荒井ほか(2011)が写真判読で行ったような流出域、破壊域、浸水域程度の区分が、ポラリメトリーSARなどで自動的に行えるような検討が必要である。引用文献神谷泉(2013):地震時の地盤災害のリアルタイムの予想,第42回国土地理院報告会.神谷泉・乙井康成・中埜貴元・小荒井衛(2012):地震による斜面崩壊危険度評価判別式「六甲式」の改良と実時間運用,写真測量とリモートセンシング,vol.51,no.6,381-386.小荒井衛(2013a):東日本大震災における液状化被害と地理空間情報を活用した液状化発生危険度の予想,GSJ地質ニュース,vol.2,no.12,361-366.小荒井衛(2013b):災害特性に基づく地理的地域特性区分と活用.都市計画,vol.62 ,no.6,44-47.小荒井衛・岡谷隆基・中埜貴元・神谷泉(2011):東日本大震災における津波浸水域の地理的特徴.国土地理院時報,122,97-111.小荒井衛・Ye京禄・中埜貴元(2014):地理学的地域特性区分についての考察.日本地理学会2014年春季学術大会.中埜貴元・小荒井衛・乙井康成・神谷泉(2013):全国の地震による地盤災害特性データの作成.日本地理学会2013年春季学術大会.