日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC25_30AM2] 人間環境と災害リスク

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 421 (4F)

コンビーナ:*青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、鈴木 康弘(名古屋大学)、小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、宇根 寛(国土地理院)、中村 洋一(宇都宮大学教育学部地学教室)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、原 慶太郎(東京情報大学総合情報学部)、座長:小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)

11:00 〜 11:15

[HSC25-06] 伊豆大島におけるクライシス・マッピングを通した地理空間情報の参加型共有とその意義

*瀬戸 寿一1 (1.東京大学空間情報科学研究センター)

キーワード:クライシス・マッピング, クラウドソーシング, ウシャヒディ, ボランタリー地理情報, 伊豆大島

1.はじめに 東日本大震災以降注目されてきたUshahidiは,主にSNSや口コミによる災害情報をWeb地図上にプロットすると共に,自由な地図作成プロジェクトであるOpenStreetMap(OSM)を背景地図として用いることで,災害発生地域の迅速な状況認識に役立てられている.実際,東日本大震災以後に日本で発生した自然災害に関しても,簡易版であるCrowdmapを用いた情報共有サイトが有志によって立ち上がった.ただし,Ushahidiを代表とする危機発生時の地理空間情報の共有手法である「クライシス・マッピング」(Meier, 2012)は,災害発生地域の内と外の情報を迅速につなぐ手段として,日本では十分活かしきれていなかった. 一方,2013年10月に発生した台風26号は,Crowdmapの迅速な立ち上げと共に情報ボランティアによる情報共有が進んだ.さらに様々な情報所有者が連携することで多くの地理空間情報が公開されるに至った.本研究は,伊豆大島を対象とするクライシス・マッピングの背景や経過を整理し,災害対応に関わるWeb上での地理空間情報の整備や情報共有のあり方を検討する.2.伊豆大島における参加型地図作成による地理空間情報の共有 ジオパークを中心とする大島観光の活性化をICT技術と共に盛り上げることを目的に,大島観光協会等が「伊豆大島ハッカソン&OSMマッピングパーティー」を2013年1月に開催した.この背景には,国土地理院の公開する電子国土Web.NEXT(現・地理院地図)を除いて,まちづくりに利用可能なWeb地図が十分に整備されていなかったことも挙げられる.このイベントでは,開発者やOSMユーザー,さらにネイチャーガイドに携わる島民ら約30名の参加者が集まり,①OSMを用いた参加者協働による詳細な地図作成,②伊豆大島ジオパーク・データミュージアム構築やiPhone向けAR観光アプリ開発が,2日間実施された.この結果,①標準地図では網羅されない通り名,ジオパークに関する主要な観光要素がOSM上に多数入力された.②についてもOSMを背景地図に用いて20以上の島内の観光・歴史情報等がWeb上に共有された.3.台風26号によるクライシス・マッピングと他機関との連携 2013年1月に開催されたイベント後もFacebookグループを通じて参加者間の交流が図られ,特に観光協会職員やネイチャーガイドら島内の参加者により,随時OSM地図やデータミュージアムの更新が行われた.そして10月16日に台風26号に伴う大雨土砂災害の発生をTV等で知った在京のユーザーが,1時間程度でWebサイト(https://izuoshima26.crowdmap.com/)を立ち上げ情報収集を始めた.ここには防災無線の情報をSNS化した防災大島など信頼性の高いTwitter記事等がこれに掲載された.面的な情報は,土砂流出範囲の速報暫定版や斜め写真が電子国土Web.NEXT上に順次公開されたことを受け,関係者に了解を取りつつクライシス・マッピングの参照情報としての活用がすぐに始まった. これに追随する形で緊急撮影による斜め写真データや赤色立体地図等が,航測会社からも特例として提供されGeoserverや防災科学技術研究所のeコミマップを通じてGIS上で重ねあわせ可能なWMSレイヤとして提供された.なおこれらの災害に関連する地理空間情報は,Crowdmap上に情報掲載する際の位置情報の推測やその基礎データとして活用され,SNSを用いることで散財しがちな災害関連情報のうち,適切かつ重要性の高い情報を選別することに役立てられた.この結果,災害発生から約1ヶ月間で248件がサイト上に掲載されページビュー数は12,000に達した.さらに,東日本大震災では大きな課題となった災害発生地域への地図や情報伝達についても,観光協会職員やネイチャーガイドによって大判の紙地図による情報として現地に伝えられた.4.おわりに 日本でもWeb地図等を駆使したクライシス・マッピングが,近年様々な機関やボランティアの理解や連携のもと迅速に行われるようになってきた.この背景には,東日本大震災を契機に災害発生初期における公開度の高い情報収集・共有の必要性が高く認識されると共に,そのフローもITに長けた開発者や地元に詳しいボランティアによって適切に進められていることが大きい.また,伊豆大島のように地理空間情報やIT技術が豊かに整備されていない地域であっても,本研究で取り上げたワークショップ等を通じて島内外のステイクホルダーが事前に協働関係を構築することで,災害発生前の情報整備や関係構築が進むことも本研究で取り上げた事例を通して明らかとなった.参考文献Meier, P.: Crisis Mapping in Action: How Open Source Software and Global Volunteer Networks Are Changing the World, One Map at a Time, Journal of Map And Geography Libraries, 8, pp.89-100, 2012.