日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC25_30AM2] 人間環境と災害リスク

2014年4月30日(水) 11:00 〜 12:45 421 (4F)

コンビーナ:*青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、鈴木 康弘(名古屋大学)、小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、宇根 寛(国土地理院)、中村 洋一(宇都宮大学教育学部地学教室)、松本 淳(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、原 慶太郎(東京情報大学総合情報学部)、座長:小荒井 衛(国土地理院地理地殻活動研究センター地理情報解析研究室)

11:30 〜 11:45

[HSC25-08] 台風26号台風による伊豆大島土石流被害と累積水量マップの作成

*沢野 伸浩1 (1.金沢星稜大学)

キーワード:台風26号, 土石流, 累積水量, WMS配信, Geoserver

1.台風26号 2013年10月11日、マリアナ諸島付近で発生した台風26号(Wipha)は、北西に進みながら発達し、16日明け方、伊豆諸島北部を通過した。気象庁は「10年に一度の強い台風」と警戒を呼びかけたが、伊豆大島を中心に日本全体で2014年2月11日現在、死者39名、行方不明者4名の大災害となった。 伊豆大島では、三原山の外輪山の中腹が約1,000mの幅で崩落する大規模な土石流が発生し、同島元町神達地区や元町三丁目といった集落を直撃し、この2つの集落だけで35名の死者と4名の行方不明者を出している。2.累積水量 台風26号が通過した際、大島町では1時間雨量が122.5mmを記録している。このような短時間に極めて大量の降雨を見た場合、土壌表面を通過できる水量には限りがあるため、ほとんど地下には浸透しなくなり、地表をそのまま流れる「ホートン型地表流」が生じることが知られている。この地表流は、単純に地形に依存して形成されることが予測され、その流れの分布は、高密度なデジタル標高モデル(DEM)から計算される累積水量によって求めることができる。実際、10mより細かい解像度を持つDEMを用いて累積水量が10,000以上程度のセルの中心点を結ぶと、地上の河川とほぼ完全に一致する。また、100セル以上で普段は流れのない場所でも、短時間に大量の雨が降った場合、それらのセルを地表に生じた流れが通過すると考えられ、過去発生した土砂災害の中で、特に線的な土石流が発生した箇所とこの線を重ねると極めてよく一致することが明らかとなっている。3.伊豆大島の事例 伊豆大島で発生した台風26号による土石流は、その直上から航空写真が国土地理院によって撮影され、電子国土サイトより公開された。この写真データを幾何補正し、基盤地図情報5mメッシュ標高から得られる累積水量が200セル以上のセルの中心点を結んだ線を重ねたところ、図に示したとおり、土石流が流走痕と極めてよく一致していることが明らかとなった。4.Webにデータ配信 筆者らは、今回の土石流が発生する以前より基盤地図情報10mメッシュ標高を用いて全国的な累積水量の分布データを作成し、WMS(Web Mapping System)を利用したデータ配信を行っている。WMSは、ベクトル情報を画像化してインターネットに配信する方法であり、容量の大きい地理情報配信を行う際、この方法が最も効率がよい。これは、KMLによるデータ配信が非圧縮の場合3MBに制限されているのと比較した場合、極めて大きな差と言えよう。 WMSによる地理情報配信には様々なシステムを使うことができるが、OSGeoプロジェクトによって開発が進められているフリーソフトのGeoserverを用いることで複雑なシステム設定を行うことなく、データ配信が可能となる。GeoserverはJavaによる開発が行われているため、基本的にJava環境下であればOSを問わず動作する。また、いわゆるソフトウエアのインストール作業すら不要であり、システムをダウンロードした実行環境にそれと適合した環境変数を設定するだけで動作する。さらに、空間拡張型のリレーショナルデータベース格納されたデータだけではなく、Shape形式のデータをそのまま配信することが可能であるなど、データ配信に必要とされる準備のための労力を大幅に削減することができる。筆者らはGeoserver3.3を用いて、通常のLinuxサーバ(CentOS)で4GBを超えるShape形式のデータを上記のサイトから配信しており、KML等、XMLによるデータ配信と比較した場合、その差は歴然としている。 しかし、WMSを用いた場合、地図表現としての凡例の定義をどのように行うかが現状、大きな課題となっている。これは、Shape形式のデータにせよPostGISなどの空間拡張型のリレーショナルデータベースにせよ、これらのデータはあくまで「位置」のみを表しており、例えば線の場合の太さや色と言った「地図上での表現」に関する情報を伴ったものではない。この表現手法の一つにSLD(Styled Layer Description)があり、この定義をGeoserverは採用しているが、現状SLDは標準化されたものがない。5.まとめ 累積水量の分布をはじめとして、防災に関する地理情報の関係者間での共有や市民向けの公開を行うには、大容量のデータを扱わざるを得ず、必然的にWMSを利用せざるを得ない。WMS自体を利用する敷居は、Geoserverにより随分と下がったと言えるが、SLD定義については現状十分な共通化が行われていないため、QGIS、gvSIGといったフリーのGISに共通化されたSLDを生成する機能の実装が望まれる。