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[HSC25-12] 2013年10月伊豆大島土石流災害の発生に対する道路の関与
キーワード:斜面崩壊, 伊豆大島, 台風23号, 御神火スカイライン
2013年10月16日に伊豆大島で発生した大規模な斜面崩壊・土石流災害に対して,首都大学東京では被害状況調査や復興支援を目的に,首都大学東京2013年台風26号伊豆大島災害調査グループが組織された.発表者らは同グループの活動の一環として,斜面崩壊の発生現場での調査を実施した.今回の斜面崩壊は, 14 世紀に噴火・流下した溶岩流と分布がよく一致し,溶岩流の存在が斜面崩壊の発生に影響を及ぼした可能性が既に指摘されている.一方で1986年の噴火後に整備された御神火スカイラインが崩壊の発生に寄与したとの指摘が災害発生直後にはあったものの,発生直後に現地調査を行った研究者の報告では,道路の設置が崩壊を促進した場合と抑制した場合の双方が考えられる(例えば,竹林ほか 2013),道路が下方からの崩壊の伝播を食い止めた(例えば,藤田 2013)などの仮説が述べられている程度である.2014年1月に行われた土木学会・地盤工学会・日本応用地質学会・日本地すべり学会の4学会による合同調査団の報告会資料(例えば,稲垣,2014)においても道路の影響は限定的との記述があるが,道路際からの崩壊について詳細な調査を実施したという記述はない.発表者らは首都大学東京2013年台風26号伊豆大島災害調査グループの第2次調査として,12月4日から6日にかけ崩壊地上部を中心とした現地調査を行った.本調査は災害の発生から1ヶ月以上が経過しており,災害後の降雨や道路上の土砂の片付けなどによる改変が存在するが,斜面崩壊の発生に対する道路の関与について,以下のような観察・推定がなされた.御神火スカイラインの最上部(北側ほど下る)では,2ヶ所で道路直下の擁壁基部からの崩壊(Type-Aとする)が観察される(片方には道路直上にも崩壊があるが,その規模は極めて小さく,道路下の崩壊に与えた影響は極小と判断される).Type-Aの崩壊の南側には道路よりも上の斜面に崩壊地(Type-Bとする)が認められる.Type-Aの崩壊は,北側に向かって下りの右カーブに位置し,擁壁が斜面にはり出す形となっており,雨水とType-Bの崩壊地からの泥水が道路上を流れ,カーブ付近で道路から擁壁表面へ流れ下ったと推測される.周辺には,大量の枯れ枝が崩壊地脇に残存している植生に引っ掛かり,またType-B崩壊地とType-A崩壊地の間の道路では斜面上方側の雍壁が泥で汚れているなど,この推測を支持する状況証拠が見られた.またType-A崩壊地の擁壁基部は白色を呈し,泥などの汚れが少ない.ほかの地点で,植生が根を密生させている厚さ1-0.5 m 程度の土壌ごと擁壁下部からはがれ落ちている場合,擁壁下部の汚れがほとんどなく白色であることが確認された.縁辺部で確認された崩壊の深度も考慮すると,南側の崩壊地から道路を流れてきた泥水と雨水が擁壁を流下することにより,植物の根が密集している表面数10cmの土壌層が水で飽和し,重量の増加,強度の低下,下位層との摩擦力の低下などにより擁壁からはがれるように崩落し始め,さらなる崩壊が進んだと推定される.以上より,今回の伊豆大島災害では,道路の存在は崩壊を拡大させる方に働いたと結論づけられる.ただし今回の崩壊分布は,道路の存在よりむしろ14世紀の溶岩流に規定されると考えられる.また渡邊ほか(2014)では,根系の支持力が小さな常緑広葉樹の二次林が卓越している斜面で表層崩壊が起きやすくなっていた可能性を指摘している.いずれにせよ,同様の地質条件で道路の透水性や排水性を高めるなどの対策を採る場合,緩やかな尾根状の(擁壁が張り出した)カーブでの対策を優先的に行うべきであろう.