日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT32_2AM2] 環境リモートセンシング

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 422 (4F)

コンビーナ:*桑原 祐史(茨城大学工学部都市システム工学科)、作野 裕司(広島大学 大学院 工学研究院 エネルギー・環境部門)、近藤 昭彦(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター)、長谷川 均(国士舘大学 文学部)、座長:近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

11:30 〜 11:45

[HTT32-03] Landsat-8 TIRSデータによる宍道湖・中海の水温分布推定

*作野 裕司1 (1.広島大学大学院工学研究院)

キーワード:衛星, リモートセンシング, 水温, 湖

島根県東部に位置する宍道湖・中海は,海水と淡水が入り混じる汽水環境にあって,シジミに代表される水産資源の豊富な水域である.ところが近年,アオコの大発生や水草の突発的拡大等の環境異変が発生し,そのメカニズムの解明のための様々なモニタリング手法が検討されている.衛星リモートセンシングは,有力なモニタリングツールとして期待されている.特に水温推定は最も基本的な物理量として重要である.一方,衛星リモートセンシングの分野においては2013年2月11日にLandsat-8と呼ばれる衛星センサがNASA/USGSによって打ち上げられた.このセンサは16日周期で観測を続けている.この衛星には,OLIと呼ばれる解像度30mの可視~中間赤外のマルチスペクトルセンサとともにTIRS(Thermal Infrared Sensor)と呼ばれる熱赤外センサ(解像度100m)が搭載されている.従来のLandsat-7と比較して高い量子化(12bit)と2バンド化が実現されているため,より高精度の水温分布推定が期待されている.そこで発表では,Landsat TIRSセンサによる宍道湖・中海の実用的な表面水温推定式を開発するとともに,その精度について検証する.また,開発された推定式を使って,同湖の水温分布特性について考察された.使用した衛星データは2013年4月~2013年12月までの10シーンである.Landsat-8 OLI/TIRS Level1 データプロダクトをインターネットサイト「Earth Exploler」を介して無償配布でダウンロードされた.得られた衛星データから宍道湖・中海湖心におけるBand10(10.6-11.2μm)とBand11(11.5-12.5μm)の3×3画素の平均値を抽出し,それぞれ輝度温度(ここではBT10とBT11と呼ぶ)に変換した.一方,実測水温データは,国土交通省水温水質データベースに格納されている表面(水面下1m)の水温データが使われた.また実測水温と衛星水温との関係を表わすモデルとして,熱赤外域の2バンドを使って大気効果が軽減できるMCSST(Multi Channel Sea Surface Temperature,MC)法が採用された.MCSSTの開発には宍道湖・中海の湖心における19データセットが使われた.検証には,米子湾で取得された3データセットが使われた.また,水温推定精度は「実測水温-衛星推定水温」の残渣の平均(バイアス)と標準偏差(誤差)で表現される.TIRSバンド10,バンド11の単バンドを使用した場合の水温推定精度は,それぞれ[バイアス1.3℃,誤差1.7℃],[バイアス0.9℃,誤差2.4℃]であった.一方,MC法による水温推定精度は,[バイアス0℃,誤差0.6℃]と計算された.米子湾において検証された3時期のデータの水温差は,平均1℃であった.TIRSセンサのNoise Equivalent Differential Temperature (NEΔT),MCSST法を使った陸奥湾のNOAA AVHRRの推定精度が,それぞれ0.4K(=0.4℃)(Irons et al, 2012),約0.5±0.2℃であることから,今回の結果は妥当な数値であると考えられる.また,従来のLandsatシリーズの熱赤外センサは1バンドだったため,Landsat-8の2バンド化は,少なくとも1℃以上の精度向上があったと判断される.Landsat-8は量子化も従来の8bitから12bitにグレードアップされたために,さらに大きな精度向上があったと推測される.開発されたMCSST式を使って宍道湖・中海の表面水温図が作成された.これらの図からこの期間における宍道湖の水温は年間を通じて,5~30℃の範囲で表面水温差は3~5℃程度であることが確認された.また,特に夏季において宍道湖西岸に位置する斐伊川や新建川の河口において,河川水の流入に起因する低水温パターンが観察された.