日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT35_1AM1] 地球人間圏科学研究のための加速器質量分析技術の革新と応用

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 311 (3F)

コンビーナ:*中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)、松崎 浩之(東京大学大学院工学系研究科)、笹 公和(筑波大学数理物質系)、永井 尚生(日本大学文理学部)、南 雅代(名古屋大学年代測定総合研究センター)、座長:笹 公和(筑波大学数理物質系)

09:00 〜 09:15

[HTT35-01] 加速器質量分析(AMS)の過去30年の発展と将来展望

*中村 俊夫1 (1.名古屋大学年代測定総合研究センター)

キーワード:加速器質量分析, 宇宙線生成核種, 放射性核種, 年代測定, イオン核種識別, イオン粒子計数

加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometry; AMS)は,粒子イオンを静電的に加速する加速器,その質量を識別する質量分析装置,さらに入射粒子のエネルギーやエネルギー損失率から入射粒子の原子番号(原子核の電荷)を決定する重イオン検出器を組み合わせて,天然に存在するごく微量の放射性同位体とその安定同位体を高感度かつ高精度に定量する測定法である.1980年代に加速器質量分析(AMS)による天然レベルのごく微量放射性同位体が,数mgというごく微量の試料を用いて高感度で測定できるようになって,放射性同位体を用いる年代測定の応用の範囲が著しく拡大された.AMSを用いると,10Be (half life: 1.5xE6 yr), 14C (5730 yr), 26Al (7.1xE5 yr), 36Cl (3.0xE5 yr), 41Ca (1.0xE5 yr), 129I (1.57xE7 yr)などさまざまな宇宙線生成放射性同位体が,また,人工放射性同位体236U (2.35xE7 yr), 240Pu (6563 yr)などが,対象とする元素の量で数ミリグラムを用いて測定できる.利用される加速器は,AMS専用機としては加速電圧が0.2MV?6MVのタンデム型の静電加速器(バンデグラフ,またはコッククロフト・ワルトン式)がほとんどである.   年代測定においては,これらの宇宙線生成放射性同位体のうち放射性炭素(14C)が最もよく用いられる.炭素は,生物に含まれる主要元素の一つであることから,生物起源のさまざまな考古学・地質学試料に含まれている.さらに,地球の大気中で宇宙線の作用で形成された14Cは酸化されて二酸化炭素(14CO2)となり,大気中に存在する他の二酸化炭素とよく混合して,14C濃度が一定になったあと,生物体内に移行する.このため,炭素試料の14C初期濃度がほぼ一定であり,試料に残存している14C濃度と試料の年代との関係はほぼ指数関数で表される.一方,41Ca は,動物の骨などに含まれており,半減期も10万年と長いため,原人段階の骨化石の年代測定に利用できる可能性が高い.しかし,41Ca の検出は,それぞれの試料中の41Ca の初期濃度が明白ではないため,また14Cの検出に比較してバックグラウンドイオンの除去が難しいため,年代測定への応用はまだ開発段階といえる.他方,10Be, 26Al, 129Iは湖底・海底堆積物の堆積年代,露出した岩石や隕石の宇宙線照射年代推定, 36Clは地下水の年齢の推定,236Uや244Thは海水の循環の研究などに利用される.  本報告では,AMSの発展の歴史,日本および世界における稼働状況を述べたあと,AMSの利用分野および将来の展望について紹介する.