日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT35_1AM1] 地球人間圏科学研究のための加速器質量分析技術の革新と応用

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 311 (3F)

コンビーナ:*中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)、松崎 浩之(東京大学大学院工学系研究科)、笹 公和(筑波大学数理物質系)、永井 尚生(日本大学文理学部)、南 雅代(名古屋大学年代測定総合研究センター)、座長:笹 公和(筑波大学数理物質系)

09:45 〜 10:00

[HTT35-04] C14を含まない実験動物の開発

*小林 紘一1パレオ・ラボAMS 年代測定グループ 1 (1.株式会社パレオ・ラボ)

キーワード:AMSによる薬物動態研究, C14を含まない生物, ユーグレナ

創薬研究の初期段階において、非常に高い放射能レベルの14Cで標識された薬物を実験用小動物に投与して、放射線測定により目的の薬物の生体内における動態を調べる実験が行われている。これに対して、実験動物の身体を構成する炭素の同位体比14C/12Cを下げることができれば14C標識薬物の放射能レベルをそれに応じて下げることが可能である。自然界の動植物の身体を構成する炭素は、14C/12C~10-12の割合で放射性同位体14Cを含む現代炭素でできている。これに対して化石燃料由来の炭素は、14Cが放射壊変により減少してほとんど無くなっていてdead carbon(DCと略称)と呼ばれる( 14C/12C ≪ 10-1414C-free carbon )。従って、DCの実験動物を使えば、目的とする薬物に付与する14Cの標識量を従来の現代炭素の動物を使う実験に比べて10万分の1程度以下に減らすことが出来、現代炭素のように低い放射能レベルの14C標識薬物による動態実験がAMS測定により可能となる。これにより研究者の放射線障害の危険性が格段に減少し、また高価な標識化費用の削減効果は非常に大きい。更に、自然放射線レベルの薬物動態実験が可能となるので、薬用資源植物の探索、生薬や漢方薬の開発研究などへの応用が期待される。本プロジェクトでは、DCの実験動物、特にDCマウスを飼育製造することを目的として、DCの餌を作る研究を約3年前に開始した。まだ研究途中であるが、ここでは今までの成果と最終目標の達成に向けての研究計画の概要を紹介する。2010年10月、14Cを含まない生物栽培の実証データを得ることを目的に、簡便な実験を開始した。14Cを含まない環境で生物を育てると必然的にDCの生物になることは明らかである。アクリル製小型グローブボックス内の空気を、14Cを含まない人工空気(N2, O2ガス及びDCであることを確認した通常のCO2ガス)に入れ替えて、LEDや蛍光灯による適当量の光の照射下でブロッコリーなどの植物及び光合成微生物であるミドリムシの栽培、培養を試みた結果、14C濃度を現代炭素に比べて20%程度まで減少させることに成功(20 pMC:percent Modern Carbon、80%のDC状態)した。(小林ほか、2011;Kobayashi et al.,2011)ミドリムシ(ユーグレナ)は植物と動物の中間的微生物(数10μm程度)であり、動物の飼育に必要な栄養素をすべて持っていることと、光合成で繁殖するのでDC化が容易であるという理由から、DCの実験動物の餌として培養することにした。その後、100%のDC化を妨げる様々な原因を探り、小型密閉容器にCO2発生錠剤と化成肥料、麦飯石(花崗斑岩:ミネラル成分補給)と共にミドリムシを入れて密閉して培養するという簡便な方法により、約96%のDC濃度のミドリムシを製造することに成功した(小林ほか;2012)。また、ミドリムシやクロレラが実験動物の餌になり得ることの確認実験を行った。3匹のマウスにミドリムシ80%、クロレラ20%の混合粉末を錠剤にした市販の健康食品を与えて約3ヶ月間飼育した結果、通常の飼料を与えて飼育した3匹の対照群と比較して、少し体重が少ない以外に大きな差は見られず、健康に育つという結果を得た。上記2件の研究結果は、DCマウスの実現の可能性が大きいことを示しており、次のステップに進むこととなった。2013年8月、本研究を支援する助成金をいただき、DCマウスの実用化を目指して開発研究を開始した。現在、容量1m3の大型密閉培養装置を製造し、大規模化に伴う様々な問題点に対応して改良を加えながら、DCミドリムシの大量培養に取り組んでいる。引用文献小林ほか(2011) Production of 14C-free plants and animals ; Kobayashi, K. ほか (2011) Production of 14C-free plants and animals ; 小林ほか (2012) Production of dead carbon lives