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[HTT35-05] 暦年較正の高精度化に向けたAMS法による南日本産樹木の14C測定
キーワード:14C地域差, 樹木年輪, 南日本, 暦年較正, 屋久杉
放射性炭素(14C)年代法は,過去5万年間の堆積物や歴史試料の年代決定に大きく貢献している年代測定法である.しかし,14C年代は暦年代と一致しないため,年代既知試料の14Cデータからなる暦年較正データセットでの較正を必要とする.また,大気14C濃度には地域差(regional 14C offset)があるため(Hogg et al. 2002),高精度な暦年較正のためには,地域ごとの暦年較正データセットを確立する必要がある.名古屋大学年代測定総合研究センターでは,日本独自の暦年較正データセットを確立するため,南日本産樹木である屋久杉を用いて1年輪ごとの14C測定を実施している.これまでの測定から,屋久杉は過去2000年間のさまざまな時代において,世界標準暦年較正データセットIntCal13(Reimer et al. 2013)よりも古い14C年代を示すことがわかっている(Nakamura et al. 2013).今回は,紀元5世紀の屋久杉年輪試料を用いた14C測定結果について報告する.試料は,鹿児島県屋久島産のスギ(試料名:Yaku_A)である.この試料は,屋久杉標準年輪曲線(木村 未発表)との年輪年代解析が行われており,年代既知である.試料のAD434-502の年輪を1層ごとに切り分け,西暦年が偶数年の試料35点(AD434, 436..., 502)について14C測定を行った.測定には,名古屋大学タンデトロンAMS2号機を使用した.偶数年のみを測定したのは,先に全体傾向を把握するためであり,将来的には奇数年の年輪試料も測定する.測定の結果,試料の14C年代は,IntCal13よりも平均28±22年,最大76±21年(AD488)古いことがわかった.試料の14C年代は,IntCal13およびSHCal13(南半球用暦年較正データセット; Hogg et al. 2013)のほぼ中間に位置した.屋久島は夏季に熱帯収束帯の北端と接するため,定常的に14C濃度の低い南半球大気が供給されやすいと考えられている(中村ほか 2012).今回の測定結果は,紀元5世紀に日本近辺の大気中14C濃度が低下したことを示唆する.このことから,この時代は南半球からの大気供給が強まっていた可能性が考えられる.坂本ほか(2013)は,長野県宮田村産スギ埋没木(年代既知)の14C濃度測定から,紀元5世紀-6世紀前半にかけて,IntCalよりも古い年代が得られたことを報告している.今回の結果は長野県産樹木の測定結果と調和するものであり,この時代は南半球大気の影響が中央日本まで及んでいた可能性が考えられる.今後は,紀元6世紀まで屋久杉試料の14C測定を実施し,坂本ほか(2013)の結果と整合するかを検討する.