日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT35_1AM2] 地球人間圏科学研究のための加速器質量分析技術の革新と応用

2014年5月1日(木) 11:00 〜 12:45 311 (3F)

コンビーナ:*中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)、松崎 浩之(東京大学大学院工学系研究科)、笹 公和(筑波大学数理物質系)、永井 尚生(日本大学文理学部)、南 雅代(名古屋大学年代測定総合研究センター)、座長:中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)

11:45 〜 12:00

[HTT35-11] 放射性炭素を用いた温暖化に伴う森林土壌有機物の分解特性の解明

*荒巻 能史1梁 乃申1寺本 宗正1冨田 綾子1 (1.国立環境研究所)

キーワード:土壌炭素, 放射性炭素, 地球温暖化, 有機物分解, 森林土壌

温暖化による気温上昇に伴って土壌有機分解が促進され、今後、大気中CO2濃度が予測値よりも更に増加する可能性が指摘されている。しかしながら、長期的な温暖化環境における土壌有機物の分解特性に関する情報は十分には得られていない。我々は、異なる森林タイプを持つ北海道から九州までの全国6ヵ所において、赤外線ヒーターを用いた人工的な温暖化操作実験を長年にわたって実施している。そこで、この実験土壌の有機炭素に含まれる14Cを鉛直的に測定することによって、温暖化に伴う微生物による有機物分解・CO2放出速度などの情報を引き出すことを目的に研究を進めている。平成23年12月に、温暖化操作実験サイトのうち西日本のアラカシ優占林(広島大学敷地内、東広島市)において、温暖化区および対照区の土壌呼吸測定チャンバー内からそれぞれ1本ずつの土壌コアを採取した。これらを実験室に持ち帰り、深さ方向に1cm間隔に切り出した土壌試料を得た。1N塩酸を加えて激しく振とうして一昼夜放置することで含有する無機成分を除去した後、これを炉乾して測定用試料とし、元素分析計によって有機炭素(POC)及び有機窒素(PON)の重量パーセントを測定した。試料のうち炭素量に換算して約3mgに相当する試料を、酸化銅とともに真空中で燃焼して試料中の有機炭素を二酸化炭素ガス試料として抽出した。これを真空ガラス実験装置中で水素ガスを用いて還元して、炭素(グラファイト)試料を得た。独立行政法人日本原子力研究開発機構/青森研究開発センターの加速器質量分析装置(AMS)を用いて、グラファイト試料中の14C/12C比を計測した。測定データは、同時に測定した標準試料中の14C/12C比からのずれ分の千分率(Δ14C)として表現した。なお、Δ14Cの測定誤差は ±4‰以下であった。POCとPONの鉛直分布は温暖化区および対照区ともに表層3cm程度までは高い濃度を示すが、その下層深さ10cm程度までに急激に減少し、深さ15cm以深では検出限界程度の低濃度となる傾向があった。深さ15cm以浅ではPOC、PONともに対照区土壌の方が相対的に高い傾向を示していたが、深さ5cm付近では両区画に差違が認められない層が存在していた。この層を除くと、温暖化区土壌の濃度は、POC、PONともに深度に関わらず対照区のおおよそ70〜80%程度であり、温暖化操作に伴う微生物による有機物分解およびCO2放出がおおよそ深さ15cm程度まで及んでいることがうかがえる。POC中のΔ14Cの鉛直分布は、対照区のΔ14Cが表層10cm程度まで110〜130‰程度でほぼ一様であるのに対して、温暖化区では深さ5cmを極大(約220‰)にした特異的な分布を示していた。表層10cm以浅のΔ14C鉛直分布に注目すると、3cm以浅のPOC > 15 wt %では温暖化区のΔ14Cが対照区に比べて小さいか同等、それ以深では温暖化区のΔ14Cが明らかに大きい値をとる。対照区が本サイトにおける土壌有機物中のΔ14Cの一般的な鉛直分布であるとすれば,表層3cm以浅では温暖化操作に伴って微生物が比較的“若い”、リターや細根などを由来とする有機炭素を分解した結果、見かけ上、温暖化区のΔ14Cが小さくなったと解釈することができる。この解釈に従えば、逆にそれ以深では“古い”、蓄積されてからの経過時間(滞留時間)の長い有機炭素を分解していることを示唆しているものと考えられる。