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[MAG38-21] 航空機モニタリングによる福島沿岸域の放射性核種濃度の分布
キーワード:航空機モニタリング, 海洋, 人工放射能, 空間線量率, 領域海洋モデル, 福島第一原子力発電所
【はじめに】2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所(FNPP1)の事故により、人工放射性物質が環境中に漏洩した。FNPP1から大気中に放出され、地表面に沈着した放射性物質の濃度分布については、地上や航空機モニタリングにおいて広域に行われている(鳥居ら,2012)。しかし、FNPP1から海洋へ直接漏洩されたことによる海洋汚染や海洋生態系ひいては人体への健康影響が懸念されているにも関わらず、海洋における放射性核種については、スポット的な濃度が報告されているだけであり、その濃度分布の詳細については把握されていない。本研究では、海洋上空において行われた航空機モニタリングとin-situで採取された海水中の放射性核種の濃度を比較し、さらに海洋モデルと組み合わせることにより、福島沿岸域における放射性核種の濃度の分布を明らかにすることを目的とした。【航空機観測及びデータ解析方法】 2011年4月18日、米国エネルギー省(USDOE)が福島沿岸域において、大型NaI検出器を搭載した米軍機C-12で航空機モニタリングを行い、1秒毎に係数率(cps)を計測した。海水採取地点(東京電力モニタリングサイト)に対して半径500mの領域で観測された係数率について、海水中放射性核種(131I, 134Cs, 137Cs)の濃度比較を行った。海水中濃度の分布は最適内挿法を用いて調べた。領域海洋モデルについては、Regional Ocean Modeling System(Tsumune et al., 2012)を用いた。【結果と考察】 モニタリングサイトにおける海水中の放射性核種濃度と全係数率(cps)は、高い相関係数(131I, 134Cs, 137Cs)の直線で近似できた。FNPP1の南~南東側に高濃度領域が認められ、最大濃度は131I 329 Bq/L, 134Cs 650 Bq/L, 137Cs 599 Bq/Lに達していた。高濃度域における131I/134Cs比は,0.6-0.7であった。2011年3月26日に、FNPP1の敷地内の汚染水で観測された131I/134Cs比は5.7であったこと(Tsumune te al., 2012)から,放射壊変を考慮すると海洋上空で観測された放射性物質の高濃度域は,FNPP1からの直接漏洩に起因するものと考えられた。放射性核種濃度の分布は海洋モデルでも再現できていたが、その濃度は過小評価であった。 福島沿岸域における混合層深度を10mと仮定(Estral et al., 2012)して見積もった,航空機モニタリング領域における放射性核種の収支は,131I 0.8、134Cs 1.1、137Cs 1.3PBqであった。2011年4月18日までに,FNPP1からの海洋への直接漏洩量は3.4PBq(Tsunume et al., 2013)であることを考えると、4月18日には直接漏洩量の3分の1以上が福島沿岸域にあったことが推定された。【引用文献】鳥居他 (2012) 航空機モニタリングによる東日本全域の空間線量率と放射性物質の沈着量調査,日本原子力学会誌,12-17.Tsumune et al. (2012) Distribution of oceanic 137Cs from the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant simulated numerically by a regional ocean model. J. Environ. Radioact., 111, 100-108.Tsumune et al. (2013) One-year, regional-scale simulation of 137Cs radioactivity in the ocean following the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident, Biogeosciences, 10, 5601-5617.Estournel et al. (2012) Assessment of the amount of Cesium-137 released into the Pacific Ocean after the Fukushima accident and analysis of its dispersion in Japanese coastal waters. J. Geophys. Res. 117. doi:10.1029/2012JC007933.