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[MAG39-13] 神奈川県における関東大震災の慰霊碑・記念碑・遺構調査 (1)県中部
キーワード:慰霊碑・記念碑, 関東大震災, 神奈川県
関東大震災の研究は震災直後に被害調査を含む多くの研究がなされたあと、1990年代から2000年にかけて武村らを中心として、地震計による地震記録の発掘と解析による本震・余震の解明、被害データの整理分析による詳細震度分布の評価などが行われた。また東京両国の被服廠跡の火災による大量死や小田原市根府川・米神における土砂災害など関東大震災を構成する個々の大惨事についても実態解明にあたってきた[武村(2009)]。一方、市民がより身近なものとして関東大震災を理解し防災意識の向上に役立てるべく、当時の人々が記した日記などに科学的な解説を加えることによって、体験談のもつ臨場感と科学的客観性を融合させ時代を超えて震災を理解できるようにする取り組みも行ってきた[武村(2005、2008)]。さらに現代人が震災を日常的に意識するために有効なものとして、様々なところに人知れず建つ慰霊碑や記念碑や震災の爪痕を残す遺構などがあることに目を付けた。関東大震災の慰霊碑や記念碑については力武(1994-1997)、神奈川県立歴史博物館(2003)、上西(2012)やWebサイト「関東大震災の跡と痕を訪ねて」などでも紹介されている。各自治体の教育委員会などによる石造物調査もある。しかしながらこれらの調査結果はそれぞれ限定的であり誤りも多く、震災を生き抜いた当時の人々の意思を知り、現代人に震災を伝えるには不十分であると判断した。このため、従来の調査結果をすべて踏まえさらに調査対象を広げ、正確を期すため全ての対象物の現地調査を行うことにした。武村(2012)による『関東大震災を歩く』吉川弘文館では、東京都23区内を対象として、震災の慰霊碑、記念碑、多くの犠牲者が出た場所や逆に多くの避難者の命を救った場所の現在の様子、震災で破壊された跡またはその再生を伝えるもの、復興過程で生まれた建物や施設、震災後の帝都復興事業による土地区画整理で郊外へ移転を余儀なくされた多くの寺院、さらには関東大震災以前から江戸・東京をたびたび襲った自然災害についての記念碑や遺構も調査しまとめた。調査地点は180カ所、対象物は260にのぼった。今回その調査を神奈川県下(静岡県伊豆地方も含む)に広げた。神奈川県を西部、中部、東部の3地域に分け、初年度として相模川を挟む中部の現地調査を終えた。慰霊碑38、記念碑65、その他エピソードを伝えるもの16、消滅したもの6、他の災害1の合計126を対象とした。この調査は今後2年間続け毎年結果をまとめる予定である。単純推定で県下の対象物は400近くにのぼるとみられる。現状の調査結果はすでに防災講演会や市民向け現地ツアー、文書館や博物館、防災団体へのデータ提供などの形で活用を進めている。史上最悪の自然災害である関東大震災の慰霊碑・記念碑や被害の実態を今に伝える遺構、ならびに復興の記念物などを通じて、当時の人々の意志を受け止める。そのことを通じて現代社会に生きる人々の震災への理解を深め、防災意識の向上に繋げること。それこそが本調査研究の究極の目的である。本研究調査はJSPS KAKENHI 25350496の助成を受けたものである。