日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21_28PM1] 生物地球化学

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 511 (5F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:陀安 一郎(京都大学生態学研究センター)、岩田 智也(山梨大学生命環境学部)、和穎 朗太(農業環境技術研究所 物質循環研究領域)、仁科 一哉(国立環境研究所)

14:45 〜 15:00

[MIS21-14] 溶存酸素の三酸素同位体組成を利用した貧栄養・中栄養水圏環境下の総一次生産量定量

*角皆 潤1南 翔1佐久間 博基1小松 大祐1中川 書子2 (1.名古屋大学環境学研究科、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:貧栄養, 中栄養, 溶存酸素, 三酸素同位体, 鉛直分布, 季節変動

天然の酸素原子には、質量数が16、17、18の3種の安定同位体が存在し、その相対存在比は、自然界の諸過程(化学反応など)において、微小に変動(=同位体分別)する。光合成や呼吸の際に進行する一般の同位体分別では、16Oに対する17Oの濃縮度が、16Oに対する18Oの濃縮度の約半分になるように同位体分別するのに対して、成層圏で進行するある種の光化学反応では、16Oに対する17Oの濃縮度が、16Oに対する18Oの濃縮度とほぼ等しくなるような同位体分別が起こる。このため、大気中の酸素分子(O2)と、光合成で生成するO2の同位体組成を比較すると、17Oの濃縮度と18Oの濃縮度の相対値(=三酸素同位体組成)に差が見られる。三酸素同位体組成は、呼吸などの一般の同位体分別では変化しないので、海洋や湖沼等の表面水(=混合層)中の溶存酸素分子(DO)の三酸素同位体組成を定量化することで、そのDO中の大気由来の酸素O2と光合成由来のO2の混合比が高精度で定量化出来る。さらに表面水と大気との間のO2交換速度を別法から見積もることで、求めた大気由来の酸素O2と光合成由来のO2の混合比から、表面水中の総一次生産量を定量化することが出来る(Luz et al., 1999)。総一次生産量の定量には、明暗瓶法や14Cトレーサー法等の培養による定量が従来は用いられてきたが、このDO中の三酸素同位体組成を利用する本手法は現存量だけで定量可能であり、培養する必要は無い。このため、簡易かつ高確度の総一次生産量定量法として、広く普及しつつある。しかし、このDOの三酸素同位体組成を利用して求めた総一次生産量は、あくまで表面水(=混合層)中の総一次生産量であり、大気との間でガス交換しない季節躍層以深で進行する光合成による総一次生産量は、ほとんど算入されていない。このため、特に混合層が薄い時期(春季や夏季)の観測で求めた総一次生産量は、水柱積算した真の総一次生産量よりも過小評価されている可能性がある。また混合層が薄い時期に過小評価された場合には、逆に混合層が深くなる時期(冬季)には、過大評価されることになる。これは特に、(1)表面水中のガス交換が不活発な陸水系や、(2)躍層以深でも一次生産が進行する貧栄養環境、で特に影響が大きくなる。そこで本研究では、貧栄養環境である支笏湖や倶多楽湖、さらに中栄養環境である琵琶湖北湖でDOの三酸素同位体組成の鉛直分布を、その時間変化とともに定量化してその影響を評価したので、結果を報告する。