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[MIS21-19] 操作実験により検証する土壌微生物群集における多様性と群集機能の安定性の関係
キーワード:安定性, 酵素活性, 呼吸速度, 殺菌剤, 多様性, 土壌微生物群集
生物群集の多様性が群集機能の安定性とどのように関係しているかということは、従来、生態学・環境科学において重要な疑問であった。しかしながら、微生物群集が生態系の物質循環に果たす役割の大きさにも関わらず、目に見えるマクロな生物の多様性-安定性の関係に比べると、眼に見えない微生物の多様性-安定性の関係はあまり研究されてこなかった。その理由の一つとして、微生物はその小ささと多様性の高さ故に、マクロな生物(例えば、草本)では可能な多様性/群集組成の操作実験が非常に難しいことが挙げられる。しかし、系統的に粗いスケールであれば、分類群特異的な殺菌剤を利用することで群集組成の操作が可能である。そこで本発表では、細菌特異的な殺菌剤(オキシテトラサイクリン)、真菌特異的な殺菌剤(シクロヘキシミド)を使用し、群集組成を大雑把に操作した土壌を作成し外的環境の変化に対して群集機能の安定性を定量した。ここでは、細菌を排除した区を「真菌区」、真菌を排除した区を「細菌区」、何も排除しない区を真菌と細菌が共存し他の2つの区よりも多様性が高い「共存区」とみなした。群集機能として有機物分解過程を駆動する土壌微生物群集の細胞外酵素の活性(炭素、リン、窒素の分解に関わる酵素活性)と土壌呼吸速度を測定した。外的要因として古典的には分解速度をコントロールすると考えられてきた植物リターの質を選び、その質を人工的に変化させて土壌に添加する実験を行った。その結果、土壌呼吸速度は真菌区と細菌区では植物リターの質の変化に応答して変化した。一方で、共存区では他の区ほど明瞭に植物リターの質の変化に応答していなかった。また、土壌酵素活性に関しても同様の傾向が見られ、共存区では、他の区よりも活性の植物リターの質への依存性が低かった。さらに脂質バイオマーカーで土壌微生物群集の組成の変化を調べたところ、共存区で最も植物リターの質の変化に対して応答していた。これらの結果は、多様な微生物が共存する土壌では、群集組成が外的要因(植物リターの質)の変化を打ち消すように変化し、結果として外的要因に対してより安定な群集機能(分解活性)が実現されたと解釈できる。本研究は、分類群特異的殺菌剤を用いるという非常に粗いスケールでの操作実験であるため、結果の解釈には注意が必要である。例えば、細菌特異的殺菌剤で排除しきれない細菌も数多く存在するだろう。従って、より高い精度で群集組成を操作する技術の開発が、微生物の多様性-安定性、もしくは多様性-機能の関係を明らかにするために必要である。本発表では、今回得られた成果の解釈に加え、どのような技術が将来的に微生物群集を高い精度で操作する技術に発展しうるか、その可能性についても議論したい。